飛行機はなぜ飛ぶのか?英語で説明は当たり前。

飛行機はなぜ飛ぶのか|訓練前・訓練中・現役になってからも絶対に必要な基礎

そもそも、訓練中も訓練前も、そしてパイロットになったとしても、絶対に基礎として知っておかないといけないことがある。それが「なぜ飛行機が飛ぶのか」である。

このテーマに関しては、現役のパイロットでも知識が曖昧なままになっている人がいたり、「整備士ではないから今さら必要ない」と考える人がいる。しかし、それは大きな間違いだ。

今回は「飛行機はなぜ飛ぶのか」を、今後の訓練で必ず必要になる航空英語日本語の両方で解説していく。特に実地試験(オーラル)では試験官からよく聞かれるが、ここで「そんな初歩的なことは聞かれないだろう」と気を抜いていると、一気に減点される

なぜ「今さら」でも、この知識が重要なのか

「飛行機はなぜ飛ぶのか」という問いは、あまりにも基本的すぎるがゆえに軽視されがちだ。学科で一度習い、訓練が進むにつれて頭の片隅に追いやられ、「もっと難しいことを聞かれるはずだ」「こんな初歩的な話は今さら問われない」と無意識に考えてしまう人も少なくない。

しかし現実には、このテーマは学科試験、口述試験(オーラル)、そして実地試験のすべてで繰り返し確認される。特に実地試験では、試験官から直接「なぜ飛行機は飛ぶのか」と聞かれるケースも珍しくない。

ここで重要なのは、試験官がこの質問をしている理由だ。彼らが見ているのは暗記量ではない。飛行の原理を理解したうえで、自分の言葉で説明できるか、そしてその理解が操縦や判断と結びついているかどうかである。

この問いに対して曖昧な説明しかできない場合、「基礎理解が不十分」「状況変化に対する判断力に不安がある」と評価される可能性が高い。逆に言えば、この段階でしっかり説明できれば、それだけで操縦者としての信頼度は大きく上がる。

飛行は魔法ではない|フォースではなく物理で飛んでいる

映画の世界では、ジェダイは「フォース」を使って物体を操る。しかし、飛行機が飛ぶ理由はジェダイのフォースとはまったく別物であり、むしろジェダイの方が完全にマジックに近い。

飛行機は「気合」や「感覚」、ましてや「信じる力」で空を飛んでいるわけではない。飛行はすべて、測定でき、予測でき、再現可能な物理法則によって成り立っている。

英語で航空を学び始めると、まず次のように整理される。

In flight, there are four fundamental forces acting on an aircraft.

つまり、飛行機の動きは偶然でも直感でもなく、常に複数の力が同時に作用した結果として決まっている。この考え方を理解していないと、操縦は「起きたことへの反応」になり、理解していれば「起きる前の予測」になる。

ここから先は、飛行機に実際に働いている力を一つずつ整理しながら、「なぜ飛行機が飛び続けられるのか」を具体的に見ていく。

飛行機に働く4つの力|Four Forces of Flight

飛行機が空を飛び続けられる理由は、特別な能力やエンジンの力だけではない。飛行中の航空機には、常に4つの基本的な力(Forces)が作用しており、そのバランスによって機体の状態が決まっている。

ここで一つ、よくある誤解を整理しておきたい。固定翼機と回転翼機(ヘリコプター)は別物だと考える人が多いが、航空力学の基本原理において起きていることは本質的に同じである。空気をどう動かし、どの方向に力を生み出しているかという点では、固定翼も回転翼も共通している。

だからこそ、将来的に回転翼へ進みたいと考えている人であっても、航空力学などの基礎は固定翼で徹底して理解しておくべきだ。

In flight, there are four fundamental forces acting on an aircraft.

飛行機はなぜ飛ぶのか

Lift(揚力)

Lift is the aerodynamic force that acts upward and opposes weight.

Lift is generated when air is deflected downward by the wing, creating a pressure difference. It depends primarily on the angle of attack, not just airspeed.

揚力とは、翼が空気を下向きに偏向させることで生じる空気力であり、速度よりも迎角(Angle of Attack)に強く依存する。

Weight(重量)

Weight is the force caused by gravity.

Weight always acts vertically downward through the aircraft’s center of gravity and includes the mass of the aircraft, fuel, passengers, and cargo.

重量とは、地球の重力によって機体が常に下方向へ引かれる力であり、燃料・乗員・貨物などすべてを含む。

Thrust(推力)

Thrust is the force that moves the aircraft forward.

Thrust is produced by engines or propellers and allows the aircraft to overcome drag and maintain airflow over the wings.

推力は機体を前進させ、翼に気流を与えるための力であり、機体を直接持ち上げる力ではない

Drag(抗力)

Drag is the aerodynamic resistance caused by air.

Drag increases as airspeed increases and must always be balanced by thrust to maintain steady flight.

抗力とは空気の抵抗によって生じる力であり、速度が上がるほど増加し、常に推力と釣り合っている必要がある。

Flight is not achieved by one force alone. It is the result of the continuous interaction and balance of all four forces.

次の段落では、多くの人が誤解しやすい「揚力はなぜ発生するのか」について、迎角(Angle of Attack)を軸にさらに掘り下げていく。

揚力は「速度」ではなく迎角で決まる

飛行機が飛ぶ理由を説明する際、最も多い誤解が「速くなれば揚力が生まれる」という考え方だ。確かに速度は揚力に影響する要素の一つではあるが、揚力を直接支配しているのは速度ではなく迎角(Angle of Attack)である。

航空英語では、この点を次のように説明する。

Lift is primarily a function of angle of attack.

迎角とは、翼弦線と相対風(Relative Wind)とのなす角度のことを指す。機体の姿勢角(Pitch Angle)や速度とは別の概念であり、ここを混同すると飛行の理解は一気に曖昧になる。

Angle of Attack(迎角)とは何か

Angle of attack is the angle between the wing chord line and the relative wind.

迎角が増えると、翼はより多くの空気を下向きに偏向させる。その結果、翼の上下で圧力差が生じ、揚力が増加する。逆に言えば、速度が十分にあっても、迎角が不適切であれば揚力は発生しない。

この事実は、操縦において極めて重要だ。なぜなら、パイロットが直接コントロールしているのは速度ではなく、迎角を変化させる操作だからである。

失速は速度ではなく迎角で起きる

失速についても、多くの人が誤解している。

Stall occurs when the critical angle of attack is exceeded.

失速は「速度が遅くなったから起きる現象」ではない。翼が臨界迎角(Critical Angle of Attack)を超えた瞬間に、揚力が急激に失われる現象である。低速時に起きやすいのは事実だが、それは迎角が大きくなりやすい状況だからに過ぎない。

この理解がないまま操縦をしていると、異常時に「なぜ揚力が失われたのか」を正しく判断できず、対応が遅れる。

なぜこの知識が判断力を左右するのか

迎角と揚力の関係を正しく理解していれば、機体の挙動を事前に予測できるようになる。逆に理解が曖昧な場合、操縦は常に「起きたことへの反応」になり、余裕は生まれない。

不測の事態が起きたとき、選択肢を増やすのは装備ではなく基礎理解だ。揚力と迎角の関係を理解しているかどうかが、その差を決定的に分ける。

エンジンは飛行機を持ち上げていない

「エンジンが強いから飛行機は飛ぶ」――この考え方は、非常によくある誤解の一つだ。確かにエンジンは飛行に不可欠な存在だが、エンジンそのものが機体を空中に持ち上げているわけではない

航空英語では、この点を非常にシンプルに表現する。

Engines do not lift an airplane. Wings do.

エンジンやプロペラ、ジェットは推力(Thrust)を生み出す装置であり、その役割は機体を前進させ、翼の周りに十分な気流を作り出すことにある。揚力は、あくまで翼と空気の相互作用によって発生する。

この点について、よくある誤解がもう一つある。少し知識をかじった人の中には、「戦闘機はパワーがあるから、あんな激しい機動で飛べるんだ」と自信満々に語る人がいる。しかし、これは本質を完全に取り違えている。

実際には、戦闘機やアクロバット機ほど、航空力学・空気力学を基本中の基本まで徹底的に突き詰めて設計された飛行機は存在しない。高い推力を持っているのは事実だが、それは空力を無視するためではなく、空力の限界を精密にコントロールするために使われている。

この事実を理解するために、グライダーを思い浮かべると分かりやすい。グライダーにはエンジンがないが、それでも空を飛ぶことができる。これは、揚力がエンジンではなく、翼と相対風(Relative Wind)によって生まれている証拠だ。

逆に言えば、どれだけ強力なエンジンを搭載していても、翼が適切な迎角を持ち、空気を正しく偏向できなければ、飛行は成立しない。推力は揚力を生み出すための条件を整えているにすぎない

この考え方は、操縦に直結する。異常時や緊急時に「パワーを入れれば何とかなる」と考えてしまうと、判断を誤る可能性が高くなる。一方で、揚力の本質を理解していれば、速度・迎角・姿勢の関係から冷静に選択肢を組み立てることができる。

次の段落では、揚力を理解するうえで欠かせない「相対風(Relative Wind)」という考え方について整理していく。

相対風(Relative Wind)を理解しないと揚力は理解できない

揚力や迎角を正しく理解するために、必ず押さえておかなければならない概念が相対風(Relative Wind)だ。これを曖昧なままにしていると、迎角・姿勢・速度の関係は必ず混乱する。

航空英語では、相対風を次のように定義する。

Relative wind is the airflow opposite to the flight path of the aircraft.

相対風とは、機体の進行方向に対して逆向きに流れてくる空気のことを指す。重要なのは、これは「自然風(風向・風速)」とはまったく別物だという点だ。無風状態であっても、機体が動いていれば必ず相対風は発生する。

姿勢角(Pitch Angle)と迎角(Angle of Attack)は別物

ここで多くの訓練生がつまずく。機体の姿勢角(Pitch Angle)と迎角(Angle of Attack)を同じものだと誤解してしまうからだ。

Angle of attack is the angle between the wing chord line and the relative wind.

迎角は、機体が地面に対してどの向きを向いているかではなく、相対風に対して翼がどの角度で当たっているかによって決まる。つまり、機体の姿勢が同じでも、相対風の向きが変われば迎角は変化する。

この違いを理解していないと、「機首を上げているのに失速した」「思ったより揚力が出ない」といった状況を正しく説明できなくなる。

相対風が示す“本当の飛行状態”

操縦において重要なのは、機体の見た目の姿勢ではなく、相対風に対して機体がどう動いているかだ。揚力も抗力も迎角も、すべて相対風を基準に決まっている。

この考え方を身につけると、上昇・降下・旋回といった操作を、単なる感覚ではなく力学的に予測できるようになる。逆に言えば、相対風を理解していない操縦は、常に結果を見てから修正する「後追いの操縦」になってしまう。

ここまでで、揚力・迎角・相対風という飛行の基礎が一通り揃った。次の段落では、これらの知識が実際の操縦や判断にどう結びつくのかを、具体的な場面を想定して整理していく。

なぜ基礎理解が非常時の選択肢を増やすのか|総まとめ

パイロットは、操縦中に単一の情報だけを見て飛んでいるわけではない。計器の表示、外の景色、機体の挙動、そして身体に伝わる感覚など、複数の情報を同時に統合しながら安全な飛行を維持している。

高度計、速度計、姿勢指示器、垂直速度計(Vertical Speed Indicator)。それぞれは単独で意味を持つものではなく、航空力学の基礎を前提にして初めて「状況」を語り始める

緊急事態や不測の事態が起きたとき、パイロットの頭の中では次のような問いが自然に生まれる。

Why is the altimeter showing this value right now?
Why is the vertical speed indicator reacting differently from my control input?

このような状況は、特別な事故や大きなトラブルでなくても、日常の飛行の中で珍しくない。乱気流、風の変化、機体重量の違い、姿勢のわずかなズレ――計器の表示と操縦の感覚が一致しない場面は常に起こり得る

ここで基礎理解がない場合、操縦は「表示に振り回される対応」になる。一方で、揚力・迎角・相対風・推力といった基礎を理解していれば、「なぜ今こう見えているのか」「次に何が起きるか」を因果関係として考えることができる

基礎の知識は、正解を一つ教えてくれるものではない。むしろ、複数の選択肢を同時に思い描ける状態を作るための土台だ。その選択肢の多さこそが、非常時における安全性を決定的に左右する。

日々大空を飛んでいるパイロットは、決して気楽に操縦しているわけではない。常に気を張り、機体と環境の変化に注意を払い、安全を最優先に判断を積み重ねている

「なぜ飛行機は飛ぶのか」という問いは、学科試験のための知識ではない。それは、操縦席で判断を下すための思考の軸であり、最終的には安全運航を支える根幹そのものだ。

この基礎を確実に理解しているかどうかが、平常時だけでなく、非常時においてもパイロットとしての差を生む。

飛行機はなぜ飛ぶのか|オーラルでよく聞かれる質問と解答例

口述試験(オーラル)や訓練中に高確率で聞かれる質問をまとめました。 すべて「基礎理解ができているか」を確認するための質問です。

Q1なぜ飛行機は飛ぶのか?(Why does an airplane fly?)

Answer:
An airplane flies because lift is generated when air is deflected downward by the wings. Flight is the result of the balance of lift, weight, thrust, and drag.

翼が空気を下向きに偏向させることで揚力が生じ、重量と釣り合うことで飛行が成立する。 飛行は4つの力のバランスによって決まる。

Q2失速はなぜ起きるのか?(Why does a stall occur?)

Answer:
A stall occurs when the wing exceeds the critical angle of attack. Airflow can no longer follow the wing surface, and lift decreases rapidly.

失速は速度が遅いから起きるのではなく、 迎角が臨界迎角を超えたときに発生する。

Q3揚力は何によって決まるのか?(What primarily determines lift?)

Answer:
Lift is primarily determined by the angle of attack. Airspeed affects lift, but angle of attack is the key factor.

揚力を最も支配しているのは迎角であり、 速度は補助的な要素にすぎない。

Q4エンジンの役割は何か?(What is the role of the engine in flight?)

Answer:
The engine provides thrust to move the aircraft forward and maintain airflow over the wings. It does not directly lift the aircraft.

エンジンは推力を生み出す装置であり、 揚力そのものを発生させているわけではない。

Q5相対風とは何か?(What is relative wind?)

Answer:
Relative wind is the airflow opposite to the flight path of the aircraft. Angle of attack is measured relative to the relative wind.

相対風とは、機体の進行方向に対して逆向きに流れる空気であり、 迎角はこの相対風を基準に定義される。

これらの質問は暗記を確認するためのものではない。 「なぜ今その現象が起きているのか」を 航空力学の基礎から説明できるかどうかが評価されている。

今から学ぶ安全の基礎知識

バードストライク

ハドソン川の奇跡

今回のバードストライクとは状況が違うが、これこそ機長の「人格」が乗客を救った証であり、 パイロットとして社会性だけでなく、広視野と決断力を持っていた証である。是非観てほしい。

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