航空英語能力証明とは何か?|命を守る言語資格
パイロットに求められる英語力とは、単に“話せる”という意味ではない。
それは「空で命を守れるか」「混乱を言葉で断ち切れるか」という、判断と責任に紐づいた言語能力である。
航空英語はネイティブでも難しいと言われるくらい表現方法や言い回しが独特である。しかし、この世界に「このくらいでいい」なんて存在しない。試験のスコアは1点でも高く取ろうと努力するのに「安全の努力」をしないパイロットがあまりに多すぎるのが現実だ。
今、あなたが「語学力が心配でも大丈夫」などというエージェントに相談してるなら今すぐパイロットの道は諦めて欲しい。厳しいようではあるが「誰もあなたを待っていない。」以上。
それでも目指す気持ちがあるなら相談して来て欲しい。必ず「空に上げてあげます。」
このページでは、ICAOが定めた「航空英語能力証明(English Language Proficiency)」について、制度的背景・評価基準・そして私(谷口)の思想を込めて解説していく。。
ICAOの定める航空英語能力証明とは
ICAO(国際民間航空機関)は、非英語圏のパイロット・管制官にも一定以上の英語能力を求めるため、英語能力証明制度を導入。
日本では国土交通省航空局がこの制度に則って試験を実施・認定している。
- Level 4:最低限の運航レベル(3年更新)
- Level 5:安定した運航レベル(6年更新)
- Level 6:ネイティブ相当(更新不要)
👉 国土交通省:航空英語能力証明について令和7年度英語能力証明実地試験予定
👉 ICAO公式サイトこちらからICAOの英語テストの詳細が確認。
各レベルで求められる力の違いとは?
多くの日本人パイロットはLevel 4で国際線を飛んでいる。
しかしそれは「合格ラインを超えた」というだけで、本質的な言語力には差があるのが実情であることは否めない。
Level 4:Operational(業務可能レベル)
- 明確な発音と基本的な構文を使用できる
- 簡単な語彙で状況を説明できるが、複雑な表現は苦手
- 想定外の状況では対応が遅れやすい
- 聞き返し・再確認に頼る場面が多い
※ 日本人パイロットの多くがこのレベルで止まっている
Level 5:Extended(拡張された運用レベル)
- 語彙の幅が広く、適切なニュアンスで表現できる
- 非定型な事態にも言語的対応が可能
- 話の流れを組み立てられる思考力がある
- 誤解を避けるための確認表現も自然に使える
※ 海外の訓練経験者や、国際線の長時間乗務経験者が多い
Level 6:Expert(専門的・自動運用レベル)
- 発音・流暢さ・語彙においてネイティブに極めて近い
- 複雑な情報も瞬時に整理・伝達できる
- ジョーク・比喩・文化的な含意にも対応可能
- 緊急時でも冷静な判断と言語処理ができる
※ 帰国子女、ハーフ、または極めて高い実務経験者が対象
Level 4は「飛べるライン」ですが、Level 5・6は「信頼されるライン」。
安全を守る英語には、その違いが如実に表れている。
試験は何を評価しているのか
試験は主に「音声でのやり取り(リスニング+スピーキング)」で構成され、次の6項目で評価されます。
- 発音(Pronunciation)
英語の絶対的基本とも言える発音はマストになる。
発音、会話のイントネーション、リズムや会話の強弱。これは基本的な事を抑えることで地域性による認識の違いを防ぐ役割もある。 - 文構造(Structure)
航空英語は通常の文法とは違うが、基本的な文構造を理解しておくことで、緊急事態のような不足の事態に陥った場合にも相手に対し正しく意味を伝える必要がある。 - 語彙力(Vocabulary)
良く世間でも「語彙力がない」などと言い、単語力と勘違いする人もいるが、どちらかと言えば同音異義語、同音同意語を状況によって使い分けたり、不足の事態や特殊な環境下で正しい語彙で伝えることはとても重要である。 - 流暢さ(Fluency)
これに関しては人それぞれ会話の速度などもあるため基準を一概に示せないが、一定の速さで会話ができ、相手に正しく伝えること。これはATCにも同じことが言えるため日頃から練習することにより慣れてくる。 - 理解力(Comprehension)
いくら英語を話せても相手が話していること、表示されている分が理解できなければ話にならない。特に長文の内容を読み解き要約出来たり、簡単な図やグラフを見て要約及び解説できる能力が必要にもなってくる。 - 応答力(Interactions)
日本人が一番苦手としていることである。普段聞き慣れない単語やイディオム(慣用句)がくると、知っているふりをしてしまう。航空管制においては迅速かつ適切に応答しなければならないが、時として通常のATCとは違う言い回しをしてくる管制官もいるため対応力は必須である。大切なことは分からなければ再度聞くことや、復唱するなど会話を明確化することが重要で、これまでの航空事故も、この対応力がないがために起きていることも肝に銘じて欲しい。こちらの「航空英語のShould」などもチェック。
この6つは単なる“語学力”の評価ではない。
「緊急時に状況を的確に伝えられるか」
「誤認を恐れずに“Say again”を言えるか」——
そこまで踏み込んだ実務レベルの“生きた言語運用力”が求められている。
私は、こう考えてこのページを作っています。
「英語が苦手でもパイロットを目指せます」
「語学が不安でも夢を追いましょう」
——その言葉に、私は強い危機感を覚えています。
そんな人はパイロットを目指してはいけない。必要とされない。
私は、語学が不安なまま空に上がることは“事故の入口”であると断言する。
そして、その責任はパイロット留学を「商品」として扱う一部の無責任な事業者にあるとも考えています。
だからこそ、このサイトでは語学を「覚えるもの」ではなく、命を守る“技能”として位置づけて伝えていく。
航空英語能力証明とは、スコアを取るための試験ではない。
それは「言葉の壁を越えて、安全を守る覚悟があるか」を問う思想試験である。
最後に。パイロットになる条件とは何か?
Level 4で国際線に乗れる。それは事実である。
しかし、Level 4に甘えるパイロットに空の未来はありません。
レベル4は“最低限の安全”であって、“仲間や客を安心させる言葉の技術”ではない。
だから私はこう言いたい。
「航空英語のゴールはLevel 6にしか存在しない」と。
Level 6はネイティブと同じである必要はない。
ただし、「一切の誤解なく、安全を明確に伝える」英語運用力が備わっていなければ、
それは“偶然の安全”でしかないのです。
本当に空を飛びたいなら、レベル6を目指せ。
本当に命を預かるなら、語学を越えろ。
それがパイロットになる条件です。
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航空英語は、紙の上ではなく空の上で使われる言葉です。
このページが、あなたが“その一言”に命を乗せられるパイロットになるための一歩になれば幸いです。
業務を遂行するための手段は必要ないのです。命を守り業界の発展のために必要なのが「航空英語」なのです。
航空英語能力証明を受験し、まずは自らの立ち位置を客観的に知ることは「安全の第一歩」であることも付け足しておく。