パイロットに英語が必要と言われる理由と日本の現状
日本では中学生から、早いところで小学生から英語を本格的に学ぶ。しかし島国である日本は外国語に親近感を覚えない文化が根付いている。それはパイロットを目指す人も例外ではない。将来パイロットになりたいと思っても「英語は苦手」と断言する人が実に多い。
正直に言う。「英語が苦手」と断言する人に航空機を操縦してほしくない。語学力は安全に直結する問題だ。これは脅しではなく現実だ。
航空英語のページでも解説しているが、語学力の欠如が航空事故の直接原因となった事例は数多く存在する。
受験のため、就職のために英語を必死に勉強し、フィリピンなどへ安いからという理由でTOEICスコア保証コースに行く人も少なくない。しかしあなたは本当にそれが「航空会社の求める人材ペルソナ」だと思っているのだろうか。
そうだとすれば今すぐこのページを閉じたほうがいい。何かのために——
「それは安全のために、の一つしかない。」
今一度、自分が何を目指して何を達成したいのかを考え直してほしい。
パイロットに必要な語学力を学ぶにはアメリカ・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・イギリス——この5択しかない。なぜなら、これらは「航空文化」が生活レベルにまで浸透している国だからだ。発展途上国での学びは見えない箇所にソフト・ハード面において脆弱性というリスクを抱えている。パイロットを目指すなら知っておいてほしい。
このページではパイロットに必要とされる英語力を、試験・採用基準・キャリアへの影響まで解説していく。
航空文化が浸透している5カ国
日本人パイロットの英語力——業界の実態
制度上、Level4で国際線に乗れる。それは事実だ。しかしそれは「合格ライン」であって「実力」ではない。この違いを正確に理解しているパイロットが、日本にどれだけいるだろうか。
Level4止まりが量産される構造
国内訓練がほぼ日本語で完結している環境では、英語を使わずにライセンスが取れてしまう。日本人は試験のための勉強を優先するため、実力のない英語力が備わってしまう構造的な問題がある。そしてLevel4を取得した後、英語力の向上をやめてしまうパイロットが後を絶たない。
Column — 一次情報
私は仕事柄、多くの元エアラインパイロットを雇用してきた。結論から言えるのは——
「こいつらよくこれでやってこれたな。や、むしろそれでやれるくらいのレベルなんだ。」
が正直な感想である。言葉は悪いかもしれないが、耳障りのいい言葉で発信してもいつまでも現状は変わらない。とにかく「英語が話せない」のだ。不思議なくらい。国際線の機長だった人も等しく。
これが日本の操縦士育成環境が作り出した、負の副産物なのだ。
現場で起きていること
外国人パイロットや管制官との交信で詰まる場面が訓練・実務を問わず発生している
外資系・国際チャーター便の現場で語学力の差が露呈し、採用・配置に直接影響が出るケースがある
採用・昇格審査でLevel5以上が暗黙の評価基準になっている現場は珍しくない
なぜ変わらないのか
「Level4で飛べている」という現状維持バイアスが根強い。英語力の向上を個人の問題として放置する構造が業界全体に蔓延している。誰も声を上げないから変わらない。変えるのは、これを読んでいるあなた自身の選択だ。
「Level4は免許であって実力ではない。」
日本の航空会社で求められる英語力
日本で大手エアラインに就職する際に必須とされる英語力を、国土交通省が実施する航空英語能力証明実地試験に照らし合わせて解説する。この実地試験は国内線・国際線を問わず要求されることを知っておいてほしい。
日本ではTOEIC・IELTS・TOEFL・英検など様々な試験があるが、航空会社にとってはICAO基準に合わせた評価試験を審査する方が合理的だ。近年では外国人パイロットの採用も盛んで、欧米諸国ではIELTSを積極採用している国も多い。なおIELTSはスコア5.5でもなかなか難しい。IELTS詳細
国内主要航空会社が求める英語力
ANA(全日空)
自社養成応募時にTOEIC 700点程度。実務ではICAO Level4以上が必須。
JAL(日本航空)
ケンブリッジ英検(CEFR B2相当)を導入。ICAO Level4以上が求められる。
ANA Wings
応募時にTOEIC 700点以上が基準。
Peach Aviation
パイロット養成プログラムでTOEIC 600点以上が必要。
Skymark
TOEIC 600点以上・英語面接あり。
注意点
これはあくまで基準であり、常に同じ条件とは限らない。採用状況・年度によって変動する。
どの航空会社もスコアだけでなく、実際の英語運用力を重視する傾向が強まっている。
外資系・国際チャーター専門の航空会社になると、求められる英語力はさらに高くなる。
海外エアライン・外資系が求める英語力
外資系・海外エアラインになると、求められる英語力の水準は国内とは別次元になる。ICAOのLevel4はあくまで最低ラインであり、実質的にLevel5以上が前提となっている場面が多い。スコアではなく、実際の運用力で即座に評価される世界だ。
主要海外エアラインの英語力基準
🇦🇪 Emirates
UAE
ICAO Level4以上必須。英語面接・シミュレーター試験もすべて英語で実施。世界トップクラスの英語運用力が求められる。
🇭🇰 Cathay Pacific
香港
ICAO Level4以上。高い英語運用力が採用の前提条件として明示されており、面接での英語力が採否を左右する。
🇸🇬 Singapore Airlines
シンガポール
ICAO Level4以上。英語面接を重視しており、交信レベルの英語運用力が実質的な採用基準となっている。
🇨🇦 Air Canada
カナダ
ICAO Level4以上。英語が第一言語の環境で訓練・業務が完結する。カナダでの訓練経験が直接的な競争力になる。
🇦🇺 Qantas
オーストラリア
ICAO Level4以上。英語ネイティブ環境での業務が前提。オーストラリアでの訓練経験が採用時に評価される。
外資系で求められるのはスコアではなく運用力
筆記スコアではなく、実際の交信・面接での英語力を直接評価される。「話せる」「聞き取れる」「咄嗟に返せる」——この3つが揃っていなければ、どれだけスコアが高くても通用しない。英語環境での訓練経験がそのまま採用競争力になる。
よくインスタなどで「海外でCAしてます・してました」という投稿を見るが、あの人たちは普通に考えてすごい。パイロットよりも多くの会話をすることで現場力は培われ、それがサービスの質にも影響してくる。
これこそ語学力が生み出す信頼関係なのだ。
航空英語能力証明の概要
パイロットとして国際線・国際空域に従事するために必要な航空英語能力証明。ここでは試験の構成・内容・レベルと有効期限を整理する。
学科試験
試験形式
マークシート式
試験時間
60分
合格基準
70%以上
実地試験
試験官と受験者の対話形式で行われる。年6回・東京と大阪で開催。
レベルと有効期限
有効期限 3年間——各航空会社が最低限求めるレベル
有効期限 6年間——なかなか難易度の高いレベル
有効期限 無期限——どのような状況においても英語が話せるレベル
Level4止まりのキャリアが抱えるリスク
Level4は「飛べる資格」であって「選ばれる資格」ではない。その差がキャリアに具体的にどう影響するかを知っておいてほしい。
採用・昇格への影響
書類選考・採用面接でLevel5以上が暗黙の評価基準になっている場面は現場では珍しくない
国際線配属・機長昇格審査で英語運用力が直接評価される現実がある
外資系への転職・キャリアチェンジを検討した際、最初の壁になるのが英語力だ
路線・ポジションへの影響
Level4止まりだと配属される路線・機材の選択肢が狭まる場面がある。英語力の高いパイロットほど幅広いキャリアの選択肢を持てる。これは制度の問題ではなく、現場の評価の問題だ。
更新切れのリスク
Level4は3年ごとの更新が必要だ。更新を怠ると国際線乗務資格に直接影響が出る。Level6は更新不要——長期的なキャリアを考えれば、Level6を目指すことが最も合理的な選択だ。
3年ごとに更新試験が必要——失効すると国際線乗務不可
6年ごとに更新試験が必要
更新不要——一度取得すれば生涯有効
とにかく日本のパイロットは勉強しない。なぜか——運航管理・整備など自分と直接関係ない領域を知ろうとしない。これと同じで語学力も鍛えようとしない。
だからこそ、パイロットとしてキャリアを積むだけでなく訓練を優位に進めるのも語学力であることに気づける人は前進していく。
英語力はコストではなく、キャリアへの投資だ。
私がこのページを作った理由
もしかしてこのサイトに辿り着くまでに——
「どのくらいのレベルがあればいいか」
「今のレベルで通用するなら挑戦したい」
「基準の低い会社がないだろうか」
などと徘徊していなかっただろうか。恐らく半数は図星だと思う。
そんな人はパイロットには向いていない——というか、目指してはいけない。
本当に事故を起こす。
スコア取得を安易なやり方で済ませようとする人も同じだ。「取れればいい」という発想が、空の上では命取りになる。
海外で訓練をして途中で挫折する人のほとんどは語学力が原因だ。だからと言って、語学力で挫折することのない日本での訓練が素晴らしいかというと、決してそうではない。語学の壁がないだけで、本質的な訓練の質が担保されているわけではない。
自社養成は基本的に海外で訓練をする。だからこそ一定以上の語学力が必須となる。これは採用側の安全への意識からだ。語学力のないパイロット候補生を海外に送り出すことは、航空会社にとってもリスクでしかない。
「語学が苦手でもパイロットを目指せます」
「語学が不安でも夢を追いましょう」
——その言葉に、私は強い危機感を覚えている。語学が不安なまま空に上がることは「事故の入口」だ。
だからこそ、語学を「覚えるもの」ではなく
命を守る技能として伝えていく。
よくある質問
Author
谷口 一貴 / Kazuki Taniguchi
株式会社SMART FLIGHT 代表取締役
元海上自衛隊潜水艦乗り。退官後、アメリカのフライトスクールでパイロットライセンスを取得。カナダ・アメリカを含む世界100校以上のフライトスクールを直接視察し、30回以上のカナダ渡航で航空会社・フライトスクール・空港関係者との信頼ネットワークを構築。訓練生がつまずく要因が英語であり、その後のキャリア・安全性にも英語が直結していることを現場の声から実感。この思想はほぼ全ての航空企業・フライトスクールから強い共感を得ており、パイロットを目指す前に英語によるマインド構築が何より大切であると確信している。
→ プロフィール詳細Last Updated: 2026.06.09