速度計に読み方と注意点|Air Speed Indicator

速度計の読み方と注意点|Air Speed Indicator

速度計から読み解く限界値と性能

色の中にあるかどうかだけでは、機体の限界は語れない。

Air Speed Indicatorとは何か

Air Speed Indicator(ASI)とは、日本語で言う「速度計」のことだ。針が示す色帯(アーク)の中に収まっていれば安心、というイメージを持っている人は多い。

しかし速度計が示しているのは、地上を移動する速さ(Ground Speed)ではない。あくまで空気に対する機体の速さを示している。この前提を理解しているかどうかで、色帯の意味も、限界値の考え方も、まったく違って見えてくる。

この記事では、速度計の色分けの意味から、速度の種類、ピトー管の仕組み、V-speedsの正しい理解、そして「アークの中にいれば安全」という思い込みの落とし穴までを整理していく。

文字盤の色分けが示す意味

速度計の文字盤には、複数の色帯(アーク)が描かれている。それぞれの色が、機体の運用上意味のある速度域を示している。

White Arc(白帯)

Flap Operating Range(フラップ運用速度域)を示す。この範囲内であれば、フラップを展開した状態で飛行してよい。

The white arc indicates the flap operating range, the speed range within which the flaps may be safely extended.

Green Arc(緑帯)

Normal Operating Range(通常運用速度域)を示す。フラップを格納した通常の巡航状態で使う速度域は、基本的にこの範囲に収まる。

The green arc indicates the normal operating range for flight with the flaps retracted.

Yellow Arc(黄帯)

Caution Range(注意速度域)大気が滑らかな状態(スムーズエア)でのみ使用してよい速度域で、乱気流の中でこの速度域を使うと機体に過度な荷重がかかる。

The yellow arc is the caution range, to be used only in smooth air, since operating here in turbulence can overstress the airframe.

Red Line(赤線)

Never Exceed Speed(決して超えてはならない速度)を示す一本の線。この先は、構造的な損傷や制御不能に直結し得る領域だ。

The red line marks Vne, the never-exceed speed, beyond which structural damage or loss of control may occur.

「速度」には4種類ある

一言で「速度」と言っても、パイロットが扱う速度には4つの段階がある。それぞれ、何を基準にした速度なのかが違う。

IAS|Indicated Airspeed(指示対気速度)

速度計の針がそのまま示している数字。何の補正もかけていない、最も生の状態の値だ。

IAS is the raw airspeed value shown directly on the instrument, without any correction.

CAS|Calibrated Airspeed(較正対気速度)

IASから、計器や取り付け位置による誤差を補正した値。POHの速度表には、このCASを基準にした数値が使われていることが多い。

CAS is IAS corrected for instrument and installation error.

TAS|True Airspeed(真対気速度)

CASから、さらに高度・気温による空気密度の違いを補正した値。高高度になるほど空気が薄くなるため、同じIASでもTASは大きくなる

TAS is CAS corrected for altitude and temperature, reflecting actual speed through the air mass.

GS|Ground Speed(対地速度)

TASから、風の影響を加味した、地上に対する実際の移動速度。到着時刻の計算には、このGSが使われる。

Ground speed is true airspeed adjusted for wind, representing actual speed over the ground.

速度計そのものが直接示せるのはIASまでだ。CAS・TAS・GSは、そこから先の補正・計算によって導き出す値である。この段階を意識しているかどうかが、巡航計画や燃料計算の正確さに直結する。

ピトー管の仕組み

速度計は、機首や主翼前縁に突き出た小さな管——ピトー管(Pitot Tube)——から得られる圧力の情報だけで動いている。

動圧(Dynamic Pressure)

ピトー管の先端が、進行方向から受ける風の圧力を取り込む。速く飛ぶほど、この圧力は大きくなる

Dynamic pressure is the pressure created by the aircraft moving through the air, increasing with speed.

静圧(Static Pressure)

一方、機体側面のスタティックポートからは、周囲の大気圧(静圧)を取り込む。これはアルチメーターやVSIが使っているのと同じ情報源だ。

Static pressure is the ambient atmospheric pressure, the same source used by the altimeter and VSI.

2つの差が速度になる

速度計の内部では、動圧から静圧を差し引いた差分を計算し、それを速度の数値に変換して針を動かしている。つまりIASとは、この引き算の結果にすぎない。

Indicated airspeed is derived from the difference between dynamic and static pressure.

言い換えれば、速度計は動圧と静圧、2つの入力が両方とも正しく取り込まれて初めて機能する計器だ。どちらか一方でも詰まれば、表示される数字はもはや現実の速度を反映しない。この点は、次のセクションで扱う内容と直結する。

V-speedsを正しく理解する

色帯の境界には、それぞれ名前がついている。V-speedsと呼ばれる、機体ごとに定められた重要な速度値だ。

Vso|Stalling Speed in Landing Configuration(着陸形態における失速速度)

フラップ・ギアを出した着陸形態での失速速度。White Arcの下限にあたる。

Vs1|Stalling Speed in a Specified Configuration(特定の形態における失速速度)

フラップを格納したクリーン形態での失速速度。Green Arcの下限にあたる。

Vfe|Maximum Flap Extended Speed(フラップ展開時の最大速度)

フラップを出した状態で許容される最大速度。White Arcの上限にあたる。

Vno|Maximum Structural Cruising Speed(通常運用最大速度)

スムーズエアでの通常運用における上限。Green Arcの上限、Yellow Arcの下限にあたる。

Vne|Never Exceed Speed(決して超えてはならない速度)

名前の通り、いかなる状況でも超えてはならない速度。Red Lineそのものを指す。

Vneを超えなければ安全、なのか

では、Vneを一瞬でも超えたらいけないのか。答えは、そんなに単純ではない。

確かにVneを超えたからといって、すぐに壊れるとも、飛行に影響が出るとも限らないのが事実ではある。しかし何が問題になるかというと、ウェイト&バランスとの関係や経年劣化だ。一人で操縦しており、燃料も満載でなければ、いくらVne内であっても理屈上は問題ないし、実際に大丈夫なケースがほとんどだ。

問題は「運用限界」を超えた時

では何が起きた時に問題になるかというと、その機種の「運用限界」を超えた時だ。これは重量、荷重、旋回半径、バンク角、エンジンパワーなど、複数の要素が複雑に絡み合って決まる。そんな時、くれぐれもVneそのものは超えていないということも、実際にある。

セスナ172の例

セスナ172で例えると、この機体はマジで頑丈に作られていて、下手くそなハードランディングに近いタッチダウンでも壊れない。しかしそれとは裏腹に、ちょっとしたことで限界を迎えることがある。それは速度そのものではなく、その時の重量配分や荷重のかかり方によって決まる。

ここで言いたいのは、アーク内に収まっているかどうかだけに囚われず、その機体の限界性能、あるいはそれに近いマニューバとは何かを、マニュアル(POH)で必ず確認しておかなければならないということだ。色帯は目安であって、機体の限界そのものを一本の線で語り尽くせるものではない。

その数字自体が、嘘をついていたら

ここまで、色帯の意味、速度の種類、V-speeds、そしてVneをめぐる運用限界の話をしてきた。しかし、これらの議論はすべて「表示されている数字が正しい」という前提の上に成り立っている

もしピトー管が詰まり、正しい動圧が取り込めなくなったら、この前提そのものが崩れる。アークの中にいるかどうかも、Vneを超えていないかどうかも、議論する土台自体が意味を失う。

これは決して大げさな話ではない。1996年に発生したBirgenair 301便の墜落事故は、まさにこのケースだった。20日間駐機していた機体のピトー管に、蜂(Mud Dauber Wasp)が巣を作っていたことが原因とされている。離陸後、機長側の速度計だけが異常な数値を示し、副操縦士側とは矛盾した表示になった。この食い違いにクルーが混乱し、失速からの回復ができないまま、189名全員が死亡する結果につながった。詳しい経緯はFAAの公式解説ページ(Lessons Learned)にまとめられている。

だからこそ、ピトーカバー(Pitot Tube Cover)の使用と、ウォークアラウンドでの目視確認が欠かせない。速度計に関するあらゆる知識は、この土台が守られて初めて意味を持つ。

Stall Warning Hornとの関係

失速が近づくと鳴る警報音、Stall Warning Horn。速度計と関連が深い装備だが、実は速度計そのものとは別系統で動いている。

仕組み

主翼前縁付近に取り付けられた小さなセンサー(可動式のベーン、または圧力差スイッチ)が、気流の剥離が始まる直前の変化を検知して警報を作動させる。ピトー管や静圧とは独立した、まったく別の入力源だ。

なぜ独立していることが重要か

この独立性こそが、Stall Warning Hornの価値だ。仮にピトー管が詰まり、速度計が誤った数字を示していても、Stall Warning Hornは正常に作動し続ける可能性がある。速度計とは違う経路で、失速という同じ危険を教えてくれる、独立した安全網だ。

作動するタイミング

実際の失速速度(Vs)に達する少し手前で作動するように設計されている。警報が鳴った時点ではまだ失速していないが、それ以上の速度低下は許されない、という合図だ。

Birgenair 301便でも、実はこのStall Warning Horn(およびStick Shaker)が正常に作動していた。しかしクルーは、矛盾する速度計の表示に気を取られ、この独立した警報を失速の兆候として認識できなかった。速度計が信用できない状況でこそ、こうした別系統の警報や、機体からの感覚的なサインに意識を向ける必要がある。

Pitot Heatという最後の砦

蜂の巣だけが、ピトー管を詰まらせる原因ではない。もまた、同じように速度計の情報源を奪う。

Pitot Heatの役割

ピトー管の内部には、電熱線が仕込まれている。Pitot Heatをオンにすることで管内が加熱され、着氷による詰まりを防ぐ。着氷条件下での飛行では、必須の装備だ。

地上での取り扱い

Pitot Heatは、地上で長時間作動させ続けると熱によってピトー管自体を損傷させることがある。多くの機体で、地上での使用は点検時のみに限定されている。

結局のところ、速度計を守る手段は一つではない。ウォークアラウンドでのピトーカバー確認、飛行中のPitot Heat、そして着氷が疑われる状況での早めの判断。この積み重ねが、速度計という計器の信頼性を支えている。着氷そのものの詳しい仕組みについては、また別の記事で扱いたい。

まとめ

速度計は、色帯とVneの数字さえ覚えれば理解した気になれる計器ではない。IAS・CAS・TAS・GSという段階、動圧と静圧という土台、そして運用限界という複雑な現実。その一つひとつを理解して初めて、表示された数字の意味を正しく扱えるようになる。

Altimeterの記事でも書いたが、昨今のデジタル化に伴い、計器がどのような動きを示すかを客観的・物理的に体験する機会が減っていることは事実だ。それ自体は悪いことでも間違いでもない。しかし計器には常に誤差があり、その範囲を理解しておくことが大事だ。

上空で何か異常が起きた時、その原因を一から究明するよりも、まずは考えられる原因の候補を瞬時にリストアップし、消去法で可能性を絞り込む方が早い。これができるかどうかは、日頃の機外点検や、何気ない機体との触れ合いの積み重ねにかかっている。

これは恋人や奥さんとの関係にも似た構図かもしれない。普段の何気ない言葉遣いや言動から異変に気づくことができれば、いざという時に対処できる。ちなみに、恋人や奥さんのVneは、いくらであろうと運用限界範囲を決して超えてはならない。そして何か矛盾があっても、そこに突っ込んではいけない。相手が表示している「表情」こそが、常に正しいのだ

計器も、人も、日頃の観察がすべての土台になる。その土台があって初めて、異常の兆候に気づき、正しく対処できるようになる。

よくある質問

オーラル試験での対策

口述試験では速度計の仕組みだけでなく、故障時に何が起きるか、他の系統とどう連動しているかまで説明できるかが問われる。以下は代表的な質問と解答例である。

Examiner:
How does the airspeed indicator work?

Pilot:
It compares dynamic pressure from the pitot tube with static pressure from the static port. The difference between the two is converted into an airspeed reading.

Examiner:
What is the difference between IAS and TAS?

Pilot:
IAS is the raw reading off the instrument. TAS is IAS corrected through CAS, then adjusted for altitude and temperature. As altitude increases, TAS becomes higher than IAS for the same indicated value, since the air is less dense.

Examiner:
If your pitot tube becomes blocked in flight, what indications might you notice, and what would you rely on instead?

Pilot:
The airspeed indicator may show inaccurate or frozen readings, sometimes behaving like an altimeter during climbs or descents. I would cross-check with pitch attitude, power setting, and the stall warning system, since that operates independently of the pitot-static system.

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谷口 一貴 / Kazuki Taniguchi

Author

谷口 一貴 / Kazuki Taniguchi

株式会社SMART FLIGHT 代表取締役

元海上自衛隊潜水艦乗り。退官後、アメリカのフライトスクールでパイロットライセンスを取得。カナダ・アメリカを含む世界100校以上のフライトスクールを直接視察し、30回以上のカナダ渡航で航空会社・フライトスクール・空港関係者との信頼ネットワークを構築。訓練生がつまずく要因が英語であり、その後のキャリア・安全性にも英語が直結していることを現場の声から実感。この思想はほぼ全ての航空企業・フライトスクールから強い共感を得ており、パイロットを目指す前に英語によるマインド構築が何より大切であると確信している。

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Last Updated: 2026.09.09

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