Vertical Speed Indicatorとは何か
Vertical Speed Indicator(VSI)とは、日本語で言う「昇降計」のことだ。今、自機が1分間にどれだけの速さで上昇・下降しているかを、フィート毎分(fpm)の単位で示す計器である。
AltimeterやAir Speed Indicatorと同じく、スタティックポートからの静圧を情報源にしている。しかしVSIには、この2つの計器にはない、構造上どうしても避けられない「遅れ」という特性がある。
この記事では、VSIの仕組みと遅れの正体から、Vx・Vyとの関係、実務での活用方法までを整理していく。
VSIの仕組み
VSIは、AltimeterやASIと同じ静圧を使っているのに、なぜ「今の高度」ではなく「変化の速さ」を示せるのか。その仕組みは、内部にある小さな仕掛けにある。
2つの経路と時間差
VSI内部には、静圧が2つの異なる経路で入ってくる。一つはダイヤフラム(薄い金属の膜)に直接、もう一つはCalibrated Leak(較正済みの微小な穴)を通してケース内部にゆっくりと。
圧力差が針を動かす
高度が変化している間、ダイヤフラム内の圧力とケース内部の圧力の間に、意図的な時間差(圧力差)が生まれる。この差の大きさが、そのまま上昇・下降の速さとして針の動きに変換される。
水平飛行に戻るとゼロに
水平飛行に戻ると、Calibrated Leakを通じてやがて両方の圧力が均衡し、針はゼロに戻る。この「均衡するまでの時間」こそが、VSI特有のLag(遅れ)の正体だ。
つまりVSIは、意図的に「遅れ」を作り出す設計になっている計器だ。この遅れは欠陥ではなく、上昇・下降率を検出するために必要な、仕組みそのものの一部である。
文字盤の読み方
VSIの文字盤は、AltimeterやASIに比べると読み方自体はシンプルだ。ただし、目盛りの単位だけは意識しておく必要がある。
目盛りの単位
文字盤には「100 FEET PER MIN」と表記されている。つまり針が示す数字は、実際の値の100倍だ。針が「5」を指していれば、500フィート毎分(500fpm)を意味する。
UPとDOWN
文字盤の上半分がUP(上昇)、下半分がDN/DOWN(下降)を示す。水平飛行中は針が中央の「0」に位置する。
読み方そのものは直感的だが、前セクションで扱ったLagがある以上、今表示されている数字は「数秒前の状態」だという前提を忘れてはならない。
「今の数字」より「傾向」を読む計器
VSIは正直に言えば、「今の正しい数字」を把握するための計器というより、自機がどのくらいの上昇率・下降率で飛んでいるかという傾向を把握するための計器と考えてよい。Lagがある以上、瞬間値を追いかけることにはあまり意味がないからだ。
AOA|Angle of Attack(迎え角)
翼弦線と相対風のなす角度。速度そのものとは違う概念だが、上昇率・下降率の背景にある空気力学的な状態を理解する上で欠かせない基礎知識だ。
Angle of Attack is the angle between the wing’s chord line and the relative wind.
Vx|Best Angle of Climb Speed(最良上昇角速度)
最も急な角度で上昇できる速度。前方の障害物を越える必要がある場面で使う。
Vx is the speed that produces the greatest gain in altitude over the shortest horizontal distance.
Vy|Best Rate of Climb Speed(最良上昇率速度)
単位時間あたり最も高く上昇できる速度。通常の上昇では、こちらを使うのが基本になる。
Vy is the speed that produces the greatest gain in altitude over the shortest period of time.
Vx・Vyとの関係で、「この速度・この高度なら上昇率はどれくらいが正しいのか」「先のエアスペースに向けて、今の速度を維持しながら高度を下げるには下降率がどれくらい適正か」を把握しながら飛ぶことに、少しずつ慣れていってほしい。
これらの数値は機種により異なるため、必ずマニュアル(POH)で確認する必要がある。コックピットの計器やパネルに、こうした基準値を直接表示している機種やフライトスクールもある。毎回のフライト前に確認するというより、訓練機の特性や基準値をすぐ見える場所に付箋を貼っておく、書いておくといった工夫も、訓練を効率的かつ安全に進める鍵になる。
機体の「細部」に目を向ける習慣
写真のCF-104 Starfighterをよく見ると、「DANGER EJECTION SEAT」の警告三角のすぐ後ろに、細い羽根状の突起物が見える。これはベーン式のAOAプローブ(Angle of Attack Probe)に特徴的な形状だ。
戦闘機などの機体側面には、こうしたAOAプローブがあるが、機種や時代によって形状が大きく異なる。ベーン(可動式の羽根)で検知するタイプもあれば、圧力差で検知するタイプもある。
機体側面に描かれたノーズアートも、単なる装飾ではなく、その機体・乗員が歩んできた記録の一部である。
航空博物館などでは、機体全体をぼんやり眺めるだけで終わってしまいがちだ。しかしこうした細部にこそ知見が広がっている。これはVSIに限った話ではない。パネル上の計器一つひとつの形状や表示、機体側面の小さなセンサーやマークにまで目を向けられるかどうか——その観察眼こそが、パイロットとしての理解の深さに直結する。
実務でのVSIの使い方
VSIが最も実践的に活きる場面の一つが、安定した進入角を維持することだ。
3度進入角の目安計算
多くの計器進入方式が採用する3度の進入角を維持するには、対地速度(ノット)×5という簡易計算で、必要な降下率(fpm)の目安が求められる。例えば対地速度90ノットなら、目安は450fpmの降下率になる。
IVSI(Instantaneous VSI)
より高性能な機体には、加速度計を組み合わせてLagを大幅に軽減したIVSIが搭載されていることがある。仕組みは違っても、目的は同じく上昇・下降の傾向を伝えることにある。
こうした計算式や目安は、あくまで安定した進入を作るための出発点にすぎない。実際の風や機体の状態に応じて微調整しながら、VSIが示す傾向を継続的に確認し続ける姿勢が求められる。
VSIも、同じ弱点を抱えている
VSIは、AltimeterやASIと同じスタティックポートを情報源にしている。ということは、当然ながら同じ弱点も共有しているということだ。
スタティックポートが虫や氷で詰まれば、VSIも正確な静圧を受け取れなくなる。針が固着したまま動かなくなる、あるいは実際とは異なる上昇・下降率を示し続ける可能性がある。
つまりVSIを疑うべき場面は、Altimeterを疑うべき場面と重なっている。複数の計器が同時におかしな挙動を示している時ほど、個々の計器の故障ではなく、共有しているスタティックポートそのものの異常を疑うべきだ。
合わせて読みたい
VSIは単体で理解するより、同じスタティックポート系の計器と合わせて理解すると、より立体的に見えてくる。
常に見る計器ではなく、要所で確認する計器
VSIは、常に目を張り付けておく計器というより、要所で確認する計器と考えてよい。進入時、上昇時、あるいは異常が疑われる時に確認する、という使い方が基本になる。
ただし、稀に下降していないのに「DOWN」を示していることがあるため、VSI単体を信じ切るのではなく、高度・速度と合わせて読む癖をつけておいた方がいい。VSIだけが異常な値を示していて、AltimeterやASIは正常であれば、VSI側の問題を疑う判断材料になる。
また、気流が乱れたUpwash(上昇気流)やDownwash(下降気流)の中では、昇降率が一気に100fpm前後振れたり、高度も上下に100フィート前後ずれることがある。そういう時こそ慌てず、“Maintain Level Flight”の心構えで、冷静に計器全体を見るようにしてほしい。
まとめ
何気ない計器かもしれないが、意味があるから搭載されている。デジタルの時代だから覚える必要はないとか、モニターに表示された数字だけを読めばいいと勘違いしている訓練生やパイロットは実に多い。しかしまずはその計器ごとの役割や構造を今一度考え直すことで、安全への視野や自らの操縦技術の向上にもつながっていく。
私は飛行機のプラモデルを、それはそれは素晴らしく作る。しかし今まで多くの訓練生を送り出してきた中で、飛行機のプラモデルを作る人は、2人しかいなかった。とても残念である。
バイク好きはバイクをいじる。車好きは、意味があるのかないのかわからないタイヤを「ハの字」にしていじる。それも、好きであるからこそ、もっと知りたい、もっとプロになりたいという気持ちの表れだ。バイクや車の趣味は、時に騒音などで確かに迷惑をかけることがあるかもしれない。しかし飛行機を買えないにしても、1,000円出せば買える飛行機のプラモデルを作らない理由を、すべてのパイロットに聞いてみたい。そして、パイロットを目指す人にも聞いてみたい。
パイロット不足は、制度や環境の要因もある。しかし実は「そもそも成り手に本質的な興味や熱意が足りない」という感情論も存在するのではないかと、プラモデルの計器盤を塗装しながら、思い耽ることがよくある。
左:P-51マスタング「Petie 2nd」/右:F-100 スーパーセイバー。どちらも筆者の自作。
よくある質問
オーラル試験での対策
口述試験ではVSIの仕組みだけでなく、Lagがある前提でどう使うか、他の計器とどう連動しているかまで説明できるかが問われる。以下は代表的な質問と解答例である。
Examiner:
How does the vertical speed indicator work, and why does it show a lag?
Pilot:
It measures static pressure through two paths: one directly to a diaphragm, and one through a calibrated leak into the case. The difference between the two creates the reading, and it takes a few seconds for the pressures to equalize, which is why there’s a lag.
Examiner:
What’s the difference between Vx and Vy?
Pilot:
Vx gives the greatest altitude gain over the shortest horizontal distance, useful for clearing obstacles. Vy gives the greatest altitude gain over time, which is used for normal climbs.
Examiner:
What should you cross-check if the VSI shows an abnormal indication that doesn’t match your altitude and airspeed trends?
Pilot:
I would cross-check the altimeter and airspeed indicator, since all three share the same static port. If only the VSI is off while the others read normally, I’d suspect the VSI itself rather than the static system.
番外編(実際のオーラル試験には出ません):
Examiner: “Do you build plastic airplane models, or have you ever?”
Pilot: …I plead the fifth.
Author
谷口 一貴 / Kazuki Taniguchi
株式会社SMART FLIGHT 代表取締役
元海上自衛隊潜水艦乗り。退官後、アメリカのフライトスクールでパイロットライセンスを取得。カナダ・アメリカを含む世界100校以上のフライトスクールを直接視察し、30回以上のカナダ渡航で航空会社・フライトスクール・空港関係者との信頼ネットワークを構築。訓練生がつまずく要因が英語であり、その後のキャリア・安全性にも英語が直結していることを現場の声から実感。この思想はほぼ全ての航空企業・フライトスクールから強い共感を得ており、パイロットを目指す前に英語によるマインド構築が何より大切であると確信している。
→ プロフィール詳細Last Updated: 2026.09.10