航空計器の基本とは何か
訓練機のパネルに並ぶ6つの丸い計器。これはSix Pack(シックスパック)と呼ばれ、Airspeed Indicator、Altimeter、Vertical Speed Indicator、Attitude Indicator、Heading Indicator、Turn Coordinatorの6種類で構成されている。
近年はグラスコックピット化が進み、この6つの丸い計器を実機で目にする機会は減りつつある。しかしアナログ計器の構造と原理を理解することは、グラスコックピットへの理解をむしろ深めることにつながる。表示方法が変わっても、測っているもの・原理そのものは変わらないからだ。
この記事では、6つの計器を大きく2つのグループに分類して整理し、それぞれの詳しい解説記事へつなげる。あわせて、アナログとグラス、それぞれのメリット・デメリットも見ていく。
6つの計器、2つのグループ
Six Packは、情報の取得方法によってPitot-Static系とGyroscopic系の2グループに分けられる。
Pitot-Static系(ピトー管・スタティックポート)
Air Speed Indicator(速度計)
動圧と静圧の差から対気速度を示す。
Altimeter(高度計)
気圧を高度に変換して表示する。気圧設定が命綱。
Vertical Speed Indicator(昇降計)
上昇・下降率を示す。構造上のLag(遅れ)が特徴。
Gyroscopic系(ジャイロスコープ)
なぜアナログ計器の基本を覚える必要があるのか
グラスコックピットの画面には、これら6つの情報が統合されて表示される。表示方法が変わっても、その裏にある原理は変わらない。
Altimeterの記事でも触れた通り、モニター上の数字を読めることと、その数字が何を根拠に、どういう仕組みで表示されているかを理解していることの間には、大きな差がある。この差は、電子機器に何らかの異常が起きた瞬間に、如実に現れる。
アナログ計器の構造を先に理解しておくことは、グラスコックピットの表示を「なんとなく見る」から「根拠を持って読む」へ変えるための、最も確実な近道だ。
例えるなら、現代のPS5のような立体的で動作のスムーズなゲームに慣れた状態で、いきなりファミコンのスーパーマリオブラザーズやゲームボーイのワリオを触ると、その解像度の低さや単調に見えるプログラムに違和感を覚えるかもしれない。しかしその逆を辿ると、理解が一段深まるはずだ。私の趣味であるプラモデルで言えば、いきなり2020年代以降の最新キットを作ってから1980年代のキットを製作すると、必ず壁にぶつかる。しかし逆に、1980年代のキットから作り始めた人にとっては、現代のキットはむしろ作りやすく、解像度が高すぎるとすら感じるくらいだ。これと同じ現象が、アナログ計器とグラスコックピットの関係にも起きている。
グラスとアナログ、それぞれのメリット・デメリット
どちらが優れているという話ではない。一長一短であり、それぞれの強みと弱みを理解しておくことが大切だ。
グラスコックピットの強み
情報を一画面に統合でき、視認性が高い。地図・気象・エンジン情報なども含めた状況認識(Situational Awareness)の向上に大きく寄与する。冗長性の面でも、複数のセンサーソースからバックアップ表示に切り替えられる設計が一般的だ。
グラスコックピットの弱み
電子系統に依存する以上、電源やソフトウェアの不具合が、複数の情報を一度に失わせるリスクを抱える。導入・維持コストも、アナログ計器に比べて高くなりやすい。
アナログ計器の強み
それぞれの計器が機械的・電気的に独立していることが多く、一つが故障しても他が生き残りやすい。この記事群で繰り返し扱ってきた、Vacuum系統とElectric系統をあえて分ける設計思想は、その代表例だ。
アナログ計器の弱み
情報が個々の計器に分散しているため、視線を何度も移して統合する必要がある。グラスコックピットのような一画面での統合表示はできない。
つまり、グラスは「統合の強さ」、アナログは「独立の強さ」を持っている。この特性の違いを理解しておくことが、どちらの機体に乗っても正しく判断できるパイロットへの近道になる。
まとめ
航空計器は、訓練する前から訓練中も、学び続ける必要がある。しかし重要なのは、基本は変わらないということだ。車の性能やシステムは頻繁に刷新され、次々と新しいタイプが登場する。しかし航空計器は、極端な話をすればライト兄弟の時代から変わっていない。大気、重力、磁力といった基本的な物理現象を土台にした技術が積み重なって、今の形になっている。
ナスカの地上絵には航空計器など描かれていないが、複葉機の時代に搭載されていた計器も、基本的には今と同じだ。それに伴い、飛行前点検や日常整備の基本もまた、変わっていない。
これが何を言いたいかというと、漠然と「エアラインに乗りたいです」ではなく、パイロットになりたいのであれば、その歴史や背景、設計思想を知ることこそ、本来パイロットに求められる素質ではないだろうか。そもそも言葉を正しく使うなら、「エアライン」には乗れないのだが。
よくある質問
オーラル試験での対策
口述試験ではSix Pack全体の分類と、それぞれの計器がどう関連し合っているかを説明できるかが問われることがある。以下は代表的な質問と解答例である。
Examiner:
Can you group the six basic flight instruments by how they obtain their information?
Pilot:
The airspeed indicator, altimeter, and VSI form the pitot-static group, using pressure from the pitot tube and static port. The attitude indicator, heading indicator, and turn coordinator form the gyroscopic group, using the properties of a spinning gyroscope.
Examiner:
If your static system fails, which instruments would be affected?
Pilot:
The airspeed indicator, altimeter, and VSI would all be affected, since they share the same static source. This is why understanding which instruments share a system matters for troubleshooting.
Examiner:
What’s the advantage of understanding analog instruments even if you’ll fly a glass cockpit aircraft?
Pilot:
The underlying principles don’t change even though the display does. Understanding the analog fundamentals helps me trust or question the digital display correctly, especially if something malfunctions.
Author
谷口 一貴 / Kazuki Taniguchi
株式会社SMART FLIGHT 代表取締役
元海上自衛隊潜水艦乗り。退官後、アメリカのフライトスクールでパイロットライセンスを取得。カナダ・アメリカを含む世界100校以上のフライトスクールを直接視察し、30回以上のカナダ渡航で航空会社・フライトスクール・空港関係者との信頼ネットワークを構築。訓練生がつまずく要因が英語であり、その後のキャリア・安全性にも英語が直結していることを現場の声から実感。この思想はほぼ全ての航空企業・フライトスクールから強い共感を得ており、パイロットを目指す前に英語によるマインド構築が何より大切であると確信している。
→ プロフィール詳細Last Updated: 2026.09.14