緊急時の標準表現「Mayday」「Pan-Pan」「Minimum Fuel」—ICAO基準の正しい使い方
航空の世界で緊急時の標準表現は世界共通である。言葉の選択ひとつで、救助の優先度も、他機や管制の行動も変わる。ICAO Annex 10に定められたこのルールを誤用すれば、命に関わる誤解を招く。

「Mayday」— 即時の危機を宣言
Maydayは最も深刻な緊急。現在進行中で命に関わる危険があるときにのみ使う。呼出方法は「Mayday」を3回繰り返す。
想定例文:
Mayday, Mayday, Mayday. Tokyo Control, Cessna 123AB, engine failure, position 20 miles south of Narita, altitude 3,500 feet, attempting forced landing.
この宣言が出れば、ATCは即座に最優先対応を行い、周囲の航空機も緊急機を優先させる。実際、1980年代のBritish Airtours 28M便では機内火災により「Mayday」を宣言し、空港全体のトラフィックを即座に遮断した記録がある。
「Pan-Pan」— 緊急だが制御可能
Pan-Panは安全は保たれているが、異常があり優先対応が必要な状況で使う。呼出方法は「Pan-Pan」を3回繰り返す。
想定例文:
Pan-Pan, Pan-Pan, Pan-Pan. Kansai Approach, ANA 456, hydraulic system malfunction, requesting priority landing runway 24L.
これは「緊急」ではあるが「即死に直結する危機」ではない。実際、乗客の心臓発作や単発エンジン機の電気系統トラブルなど、多くの事例でPan-Panが使われている。誤ってMaydayを使えば空域全体を不必要に混乱させる可能性がある。
「Minimum Fuel」— 注意喚起
Minimum Fuelは緊急宣言ではない。ただし「余裕がないのでこれ以上の遅延は危険につながる」という注意喚起だ。必ず客観的な判断材料を伝える。
想定例文:
Nagoya Tower, JAL 789, Minimum Fuel. Unable to accept further holding. Remaining endurance 25 minutes.
ここで「25分飛行可能」と明示することで、ATCは判断材料を得る。もし限界を超えれば即座に「Mayday Fuel」に切り替える必要がある。
使用上の注意点
- 無闇に宣言を使わない。乱用すれば信頼を失う。
- 「Emergency」といった曖昧な言葉で済ませない。ATCが知りたいのは緊急性の度合い。
- MaydayもPan-Panも「何が起きているか」を英語で説明できなければ意味がない。
- Minimum Fuelは必ず「あとどれくらい飛行可能か」を数字で示す。主観ではなく客観的な判断材料を提供する。
結論
ICAOの標準表現は単なる言葉ではなく、命を守るための合図である。Mayday、Pan-Pan、Minimum Fuelを正しく使い分け、必要な情報を添えて伝えること。それが国際基準に従うパイロットの責任である。