METARとは
TAFが「これから空港周辺がどう変化していくか」を示す予報であるのに対し、METAR(Meteorological Aerodrome Report)は「今、その空港で何が観測されているか」を示す実況報告である。
一見すると、アルファベットと数字が並んだだけの無機質な電文に見える。しかしこの一行の中に、風・視程・雲・気温・気圧という、フライトの判断に直結する情報がすべて詰め込まれている。
TAFが未来への備えだとすれば、METARは今この瞬間の事実である。この記事では、METARのフォーマットの読み方から、よくある誤読、そして実務での使い方までを整理していく。
METARの基本情報
発表間隔
通常は1時間ごとに発表される。多くの空港では自動観測装置(ASOS/AWOS)によって測定され、機械的に更新されている。
SPECI(随時観測報)
風向・視程・天候などが規定値を超えて急変した場合、定時を待たずに発表される特別な報告がSPECIである。SPECIが出ているということ自体が、状況が急変したサインだと捉えるべきだ。
TAFとの役割の違い
METARは「観測された事実」であり、予測や解釈は含まれない。TAFの予報が実際に当たっているかどうかを確認するための照合材料として機能する。
METARは「今」を切り取ったスナップショットにすぎない。だからこそ、1時間前のMETARを見て安心してはいけない。最新の情報かどうかを常に確認する習慣が必要だ。
METARのフォーマットを読み解く
実際のMETAR電文を例に、どの部分が何を意味しているのかを一つずつ分解していく。
METAR Example
METAR CYYC 241800Z 24012KT 15SM FEW040 BKN100
18/09 A3005 RMK CU2AC5 SLP142
地点略号・観測時刻
CYYCはカルガリー国際空港。241800Zは「24日18時00分UTCの観測」を意味する。
風・視程
24012KTは「240度から12ノット」、15SMは「視程15マイル」を意味する。
雲量
FEW040は「4,000フィートにFew」、BKN100は「10,000フィートにBroken」を意味する。BKN以上が天井(ceiling)として扱われる。
気温・露点・気圧
18/09は「気温18℃、露点9℃」。A3005は「高度計補正値30.05inHg」を意味する。気温と露点の差が小さいほど、霧が発生しやすい状態を示す。
RMK(付加情報)
RMK以降は補足情報。CU2AC5は雲種の内訳、SLP142は海面気圧の詳細値を示す。読み飛ばされがちだが、状況把握の精度を上げる情報が含まれている。
現在天気コードの読み方
METARには、TAFにはない「現在の天気」を示す略語群が含まれることがある。悪天候の実例では、この部分の読み間違いが判断ミスに直結する。
強度記号
–(弱い)、無記号(並)、+(強い)、VC(付近)で強度・位置を表す。同じ現象でも記号一つで意味が大きく変わる。
降水系
RA(雨)、SN(雪)、TSRA(雷雨)。例えば+TSRAは「強い雷雨」を意味する。
視程障害系
BR(もや)、FG(霧)、HZ(煙霧)。BRとFGは視程の違いで区別され、混同すると状況判断を誤る。
組み合わせの例
-SHRAは「弱いにわか雨」。強度記号・種類・現象が組み合わさることで、一つのコードが具体的な状況を表現する。
これらのコードは組み合わせと強度記号まで含めて初めて意味を成す。略語だけを単独で覚えても、実際の電文では読み違えやすい。
よくある間違い・注意点
METARの読み方を覚えていても、実際の運用で誤解しやすいポイントがいくつかある。
CAVOKを見落とす・誤読する
CAVOK(Ceiling and Visibility OK)は「視程10km以上、天井なし、著しい気象現象なし」を一語で示す表記である。数値がずらりと並ぶ他の電文と違い、単語一つで済むため、逆に見落とされやすい。
視程の単位を勘違いする
国によって視程の単位が異なる。北米ではSM(statute miles)、多くの国ではメートル表記が使われる。単位を混同すると、視程の解釈が何倍もズレるため注意が必要だ。
SPECIの意味を軽視する
定時のMETARではなくSPECIが発表されているということ自体が、状況が急変したサインである。「また随時更新か」程度に流してしまうと、変化の兆候を見逃す。
古いMETARで判断してしまう
METARはあくまで発表時点のスナップショットである。1時間前の情報を最新の状況だと思い込んで判断すると、実際の空との間に大きなズレが生じる可能性がある。
METAR・TAF・ATISの使い分け
METAR単体で判断を完結させず、性質の異なる3つの情報を役割ごとに組み合わせることが実務の基本になる。
TAF(未来)
空港周辺の今後数十時間の気象予報。フライトプランニングの段階で最初に確認する情報。
METAR(現在)
空港の現在の観測データ。TAFの予報が実際に当たっているかどうかを確認するための照合材料になる。
ATIS(運用状況)
気象情報に加えて、使用滑走路や運用上の注意事項まで含めた音声放送。管制と通信する直前に取得する情報。
TAFで大枠の見通しを立て、METARで実況とのズレを確認し、ATISで直前の運用状況を把握する。この三段構えの確認が、天候変化に対する余裕を生む。
実際にMETARを読んでみる
ここまでの知識を踏まえて、悪天候を含むMETARを実際に読み解いてみる。
METAR Example
SPECI CYYZ 242215Z 27022G32KT 1 1/2SM +TSRA BR
BKN008 OVC015CB 19/18 A2985 RMK CB8 TS OHD MOV E
SPECIである点
冒頭がSPECIである時点で、定時観測を待たず急変が発表されたことがわかる。まずこの一語に注目する必要がある。
風・視程
27022G32KTは「270度から22ノット、突風32ノット」。1 1/2SMは「視程1.5マイル」まで低下している。
現在天気・雲
+TSRA BRは「強い雷雨ともや」。OVC015CBは「1,500フィートに積乱雲を伴うOvercast」。かなり厳しい状態であることがわかる。
RMK(付加情報)
TS OHD MOV Eは「雷雨は空港上空にあり、東へ移動中」を意味する。この一文だけで、状況が今後どう推移するかの手がかりが得られる。
この例からわかるのは、METARのRMK欄まで含めて読み解くことの重要性だ。基本要素だけを追って満足せず、末尾の付加情報にも状況判断のヒントが隠れている。
実際のMETARはNAV CANADAやFAAが公開する航空気象情報から確認できる。
オーラル試験・チェックライドでの落とし穴
口述試験ではMETARの用語を暗記しているかではなく、その意味を説明し、判断に結びつけられるかが問われる。以下は代表的な質問と解答例である。
Examiner:
What is the difference between METAR and TAF?
Pilot:
METAR is a current observation report showing actual weather conditions at the time it was issued, while TAF is a forecast predicting future conditions over a specified period.
Examiner:
Why would a SPECI be issued instead of waiting for the next scheduled METAR?
Pilot:
A SPECI is issued when weather conditions change significantly, such as a sudden drop in visibility or a wind shift, before the next scheduled observation is due.
Examiner:
How current is the METAR you are looking at?
Pilot:
I would check the observation time in the METAR itself. If it is more than an hour old, I would look for a more recent SPECI or check the current ATIS before making a decision.
まとめ
METARは、未来を予測するための情報ではない。今この瞬間、その空港で何が起きているかを示す事実である。TAFで見通しを立てた上で、METARという現在地を確認する。この往復こそが、天候判断の基本になる。
CAVOKの一語も、SPECIの発表タイミングも、RMK欄の一文も、すべてに意味がある。数字とアルファベットの羅列を、ただの記号として読み飛ばさないでほしい。
日頃の天気予報や天気図を何気なく見ておくのは、METAR情報と自分の見た客観情報との整合性や違いを把握することにつながる。天気が常に変わり続けている以上、次に自分が何をすべきかの選択肢と判断力にも直結してくる。
METARを正確に読み解く力は、TAFとATISを組み合わせて使う力とセットで身についていく。3つの情報源を行き来しながら、今と未来の両方に備える習慣を作ってほしい。
よくある質問
Author
谷口 一貴 / Kazuki Taniguchi
株式会社SMART FLIGHT 代表取締役
元海上自衛隊潜水艦乗り。退官後、アメリカのフライトスクールでパイロットライセンスを取得。カナダ・アメリカを含む世界100校以上のフライトスクールを直接視察し、30回以上のカナダ渡航で航空会社・フライトスクール・空港関係者との信頼ネットワークを構築。訓練生がつまずく要因が英語であり、その後のキャリア・安全性にも英語が直結していることを現場の声から実感。この思想はほぼ全ての航空企業・フライトスクールから強い共感を得ており、パイロットを目指す前に英語によるマインド構築が何より大切であると確信している。
→ プロフィール詳細Last Updated: 2026.08.25