パイロットには、どれくらいの英語力が必要か
パイロットを目指す人が、最初に気になるのが英語力だ。英検の級なのか、TOEICの点数なのか、IELTSなのか。それとも、航空英語能力証明のレベルなのか。
結論から言えば、必要なのはスコアそのものより、英語を使って運航する力だ。ただし、目安になる数字はある。
パイロットの英語は、日常会話や試験の英語とは別物だ。管制官の指示を聞き取り、意味を取り違えずに、すぐ判断して返す。航空英語がネイティブにも難しいのは、そのためだ。
このページでは、必要な英語力の目安、試験のスコアと運用の力のちがい、運用レベルの英語力とは何か、そして何から始めればよいかを、順に整理していく。
まず結論
IELTS 6.0を最低限とるか、ICAO英語レベル5を取る。
IELTS
6.0を最低限の目安に
海外のフライトスクールで訓練するときに、求められる基準の一部として目安になる数字だ。
ICAO
レベル5を取る
ICAOの評価は1〜6。運用上の最低ラインはレベル4で、レベル5はその上にあたる。
注
IELTS 6.0は、あくまで海外で訓練する際に最低限必要とされる基準の一部だ。スクール、国、コースによって異なる。
まずはICAO基準のレベル4を目指し、自分の英語力がどれくらいかを把握してみることが重要である。
ただし、これらの数字は入口の目安にすぎない。スコアがあっても、現場で通用するとは限らない。その理由を、次の章から見ていく。

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英語力は「信用」の通貨になる
パイロットの英語力は、点数のためのものではない。言われたことを正確に理解し、伝えたいことを正確に返す。その積み重ねが、そのまま信用になる。
座学や訓練は、教官の説明を理解し、質問し、答えるところから始まる。
教官にとって、説明が伝わる相手かどうかは、訓練を進める上で大きな判断材料になる。英語が通じれば、説明は一度で済み、次の段階へ進みやすくなる。
英語力が信用につながると、訓練の中で、次のような流れが生まれる。
STEP 1
英語が通じて、信用される
↓
STEP 2
座学や訓練がスムーズに進む
↓
STEP 3
教官や仲間との会話が生まれる
↓
STEP 4
苦手なことや分からないことを、その場で解決できる
↓
RESULT
解決する力が、おのずと培われる
逆に、英語が通じないと、質問そのものができない。分からないまま進めば、苦手なことは苦手なまま残る。
RogerやWilcoの意味が分からないまま、空を飛ぼうとするのは危うい。たとえば、Do、Does、Didの使い分けも、基本的な文法だが、英語圏では、こうした基本の正確さが教養として見られることもある。
英語力は、知識というより、信用という通貨に近い。使えば使うほど、次の機会が増えていく。
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英語ができないことで起きる、無意識のトラブル
英語力が足りないとき、本人は「困っている」と気づかないことが多い。聞き取れたつもり、伝わったつもりのまま、運航が進んでしまうからだ。
代表的なトラブルは、次の3つだ。
1. ATCとの誤解
管制官の指示を聞き取れなかったり、意味を取り違えたりしたまま、返事をしてしまう。管制官は、返事があれば理解したものと受け取る。そのずれが、そのまま運航に出る。
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聞き取れなかったときの、聞き返し方。
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似ている返事の、使い分け。
2. クルー間での誤認識
複数の人で運航するとき、お互いの認識がずれたまま進んでしまう。教官との訓練でも、海外のフライトスクールや航空会社でも、英語が共通の言葉になる。確認の一言が出せないと、ずれは気づかれないまま残る。
3. 他機との情報共有ができない恐怖
同じ周波数には、ほかの機体もいる。他機の位置や意図を英語で聞き取り、自分の位置や意図を英語で伝える。これができないと、周りの状況が見えないまま飛ぶことになる。
POINT
こうしたトラブルは、まったく分からないときより、分かったつもりで返してしまったときに起きやすい。
目指す進路で変わる、必要な英語力の目安
パイロットに必要な英語力は、どこで訓練し、どこで働くかによって、求められるものが変わる。大きく分けて、次の3つの進路で考えるとよい。
ここでは全体像だけを整理する。細かい基準は、それぞれの記事で詳しく扱っている。
PATH 1
国内で訓練する
国内の訓練は、日本語で進むことが多い。そのため、英語は後回しになりやすい。ただし、将来、国際線や海外の空港を飛ぶ場合は、航空英語能力証明が求められる。
PATH 2
海外で訓練する
座学、試験、管制官との交信まで、すべて英語になる。入学の段階で、スクールから英語力の基準を求められることがあり、IELTS 6.0はその目安のひとつだ。
PATH 3
航空会社に就職する
求められる基準は、会社ごと、年度ごとに異なる。スコアだけでなく、実際の運用力を見られることもあるので、最新の募集要項を確認しておく。
注
基準は、スクール、国、航空会社によって異なり、年度によっても変わる。最新の情報を、必ず確認すること。
進路が違っても、共通しているのは、英語を使えるかどうかだ。次の章では、試験のスコアと、運用の力のちがいを見ていく。
英検・TOEIC・IELTSと、航空英語の運用力のちがい
英検、TOEIC、IELTS。どれも英語力を測る代表的な試験だ。ただし、測っているのは、運航で使う力そのものではない。
日本の英語教育は、受験対策やキャリアのために「覚える英語」に偏りがちで、「使う力」を鍛える機会が少ない。これが、私の見てきた現場の実感だ。
まず、各試験が何を測るのかを、並べて整理する。
| 試験 | 測る技能 | CEFR B2の目安 |
|---|---|---|
| 英検 | 読む・聞く・書く・話す | 準1級 |
| TOEIC L&R | 聞く・読む | 785点以上(最低ラインの目安) |
| IELTS | 聞く・読む・書く・話す | 5.5〜6.5 |
| 航空英語能力証明 | 航空の場面での、聞く・話す力 学科試験と実地試験 |
対応なし ICAOの評価基準(レベル4〜6) |
※ 数字は目安。試験ごとに測る技能が異なるため、単純には比べられない。TOEICの対応スコアは、ETSが「最低ラインの目安」として示しているもので、厳密に当てはめないよう勧められている。
スコアがあっても、ATCが完璧とは限らない
たとえば、IELTS 6.5があるからといって、ATCが完璧にできるという意味にはならない。座学や訓練中の会話には困らなくても、重要なのは、英語を運用して、運航に活かせるかどうかだ。
管制官の指示は、短く、決まった言い回しで出される。それを聞き取り、すぐに判断して返す必要がある。試験で慣れた長い文や、ゆっくりした会話とは、別の力が要る。
POINT
試験のスコアは、英語を知っているかの目安。運航で問われるのは、英語を使えるかだ。
では、運用の力とは、具体的に何で構成されているのか。次の章で、ICAOの評価項目から見ていく。
参考:IELTS: Everything you need to know about IELTS and the CEFR/ETS: TOEIC Mapping Table (CEFR)

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運用レベルの英語力とは何か
運用レベルの英語力は、ICAO(国際民間航空機関)が定める、6つの項目で評価される。発音、構文、語彙、流暢さ、理解力、やり取りだ。
どれか1つが高くても、運航では足りない。6つが同時に回って、はじめて「運用できる英語」になる。
Pronunciation
発音
訛りがあっても、航空関係者に理解してもらえるか。
Structure
構文
場面に合った文の組み立てを、正確に使えるか。
Vocabulary
語彙
航空の言葉と日常の言葉を、場面に合わせて選べるか。
Fluency
流暢さ
適切な速さで、途切れずに話せるか。
Comprehension
理解力
管制官の指示や、仕事に関わる話を、正しく聞き取れるか。
Interactions
やり取り
すぐに、適切に返せるか。確認や聞き返しができるか。
求められるレベルと、見直しの間隔
ICAOの基準では、国際運航で最低限求められるのは、レベル4(Operational)だ。レベルを取ったあとも、定期的に見直される。間隔は、レベル4が3年、レベル5が6年で、レベル6には固定の間隔がない。
まずはレベル4を基準に、自分の英語力の位置を知る。そこから、上を目指すかどうかを考えればよい。
6つの項目は、基礎の積み上げで伸びていく。サイト内の記事で、それぞれの入り口を確認できる。
運用の力は、知識を増やすだけでは身につかない。次の章では、知っているはずの単語が、現場で別の意味になる例を見ていく。
知っている単語ほど危ない
上空で、管制官から「Should be no factor」と言われて、即座に状況を判断できるだろうか。
まさか、shouldは「〜するべき」「〜するべきではない」が唯一の使い方だと、勘違いしていないだろうか。
航空英語では、中学や高校で習った単語が、別の意味で使われることがある。知っている単語ほど、日常の意味で読んでしまい、そこに落とし穴がある。
Should be no factor
Traffic coming from head on you, should be no factor.
正面から来るトラフィックがいるが、影響はないはずだ。
ここでのshouldは、義務ではなく、「〜のはず」という見込みを表している。空に絶対の安全はなく、管制官はモニターで見える範囲から判断するしかない。だから「影響はない」と言い切らずに、「ないはず」と伝える。
Standby
日常の感覚では、「待機」「準備ができている」と読みたくなる。しかし、無線でのStandbyは、「今は対応できないので、待っていてください」という意味だ。
「準備OK」の返事のつもりでStandbyを使うと、意味が逆に伝わってしまう。
Affirmative
「はい」はYesでよいと思うかもしれない。しかし、ATCでは原則として、Affirmativeを使う。Yesは、聞き違いや混乱のもとになるからだ。
型どおりに、即答できた例
以前、日本の航空会社のパイロットが、アメリカの空港で離陸前にトラブルが起きた際、管制官からこう聞かれた、という話を聞いたことがある。
Passengers all set?
乗客は、準備ができているか(大丈夫か)。
Affirmative, all set.
はい、準備できています。
返事は、Affirmativeで始め、質問の言葉をそのまま使って短く返している。トラブルの最中でも、型どおりに、即座に答えられた例だ。
※ この話は聞いたものであり、確認できる記録は見つけられていない。「こういう使い方がある」という一例として紹介している。
POINT
運用の力は、知っている単語の別の意味に、すぐ気づけるか、そして型どおりに、即座に返せるかで決まる。
何から始めるか:まずは基礎から
運用レベルの英語力は、6つの項目が同時に回ってはじめて成り立つ。ただし、最初から全部を伸ばそうとする必要はない。
航空英語は、基礎の積み上げだ。基礎が抜けたまま先に進むと、あとで詰まる。だからこそ、こういう基礎から始めることが大事になる。
最初に押さえたい、3つの基礎
フォネティックコードと、数字の読み方
アルファ、ブラボーに始まる、聞き間違いを防ぐための読み方。どの交信でも使う。
コールサインと、復唱
自分が呼ばれていることに気づき、指示を正しく繰り返す。
地上走行から離陸までの、基本のやり取り
タクシー指示、滑走路への進入、離陸許可。飛ぶ前の交信を、順に押さえる。
基礎を学びながら、自分の英語力がどれくらいなのかを知る。それが、ICAOレベル4を目指す最初の一歩にもなる。
短い期間で、自分が航空英語を学べるかどうかを確かめてみる、という始め方もある。
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現場から一言:英語が安全を作る
パイロットの英語力に、「これくらいでいい」という線はない。「英語が苦手だが、訓練で頑張る」という世界も存在しない。
学生の頃のように、成績は良くないが遅刻も欠席もないから推薦、という甘い世界でもない。パイロットの世界に、内申点は存在しない。
これまで数百人の訓練生や留学生を見てきたが、正直、英語を真剣に学ぼうとしていた人は数人しか記憶にない。
IFRの組み方や筆記試験には必死なのに、英語が安全を作るという感覚は、ほとんどの人に根付いていない。
パイロット留学のエージェントが、「英語が苦手でも大丈夫」「日本人教官がいるので」と案内することがあると聞く。しかし、そもそも海外で訓練するのであれば、英語は必須だ。苦手でもできる、という世界は存在しない。
また、英語が苦手でも、学ぶ意欲があれば、英語力は必ず伸びる。そして、その分だけ、パイロットへの道は着実に近づいてくる。
だからこそ、早い段階で、基礎から英語に向き合っておく。それだけで、訓練の進み方は変わってくる。

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