トラフィックパターンは「型」を覚えれば終わり、ではない
トラフィックパターンは、訓練の最初期に習う。Upwind、Crosswind、Downwind、Base、Final。レグの名前と流れを覚えれば、型としてはほぼ完成だ。
そして、この型は、私が見てきた範囲では、アメリカでもカナダでも原則同じである。基本が共通だからこそ、最初に習う内容は、どこの空港でも通用する。
ただし、現場に出ると、この型の周りで「たまにややこしいこと」が起きる。型そのものが変わるのではない。変わるのは、その日、その空港の事情だ。
秩序とルールの中に、突然の変化が入ってくる。その変化に気づけるかどうかは、基礎が身についているかどうかで決まる。この記事では、基礎を押さえたうえで、その変化の中身を整理していく。
この記事で押さえる3つの変数
01
目標物の言い表し方
wash、farm、creekなど。管制官が指示を出す基準点になることがある。
02
滑走路の割り当て
パラレルランウェイでは、用途ごとの割り当てが、その日の状況で変わる。
03
周波数
混雑時に、タワーが周波数を分けることがある。TWRとGRDは両方控えておく。
トラフィックパターンの全体図
まず全体図から入る。トラフィックパターンは、滑走路を中心にした四角い周回経路だ。離陸してから着陸するまで、同じ向きに曲がり続けて滑走路へ戻ってくる。一周すると、旋回は4回になる。
※ 図は左回り(Left traffic)で描いている。右回りのときは、左右を反転して読めばよい。レグの名前と順番は変わらない。
POINT
図のとおりの四角形で考えると、どのレグも前のレグから約90°曲がった先にある。レグの名前は、この「何回目の曲がり角か」とセットで覚えると崩れにくい。
5つのレグを、飛ぶ順に整理する
全体図の番号と対応させて、1つずつ確認する。ここでは意味だけを押さえる。管制官の指示や交信での使われ方は、後の章で扱う。
Upwind
離陸後、滑走路の延長線上をそのまま直進して上昇するレグ。ICAO系の資料では「Departure」とも呼ばれる。呼び方にずれがあるので、下の注意枠も読んでおく。
Crosswind
Upwindから最初に曲がった先のレグ。滑走路に対して直角に進む。
Downwind
滑走路と平行に、着陸する向きとは逆向きに飛ぶレグ。管制官から、間隔をとるために延ばすよう指示されることがある。
Base
Downwindから、滑走路の延長線に向かって直角に曲がった先のレグ。
Final
滑走路の延長線上に乗って、着陸に向かうレグ。
CAUTION
Upwindは、公式の定義と現場の使い方が少しずれている
全体図の「1. Upwind」は、ICAO系の資料と、現場でよく使われる呼び方に合わせて描いている。
一方、FAAのPilot/Controller Glossaryでは、Upwind legは「着陸する向きに、滑走路と平行に飛ぶ経路」と定義されている。離陸後に延長線上を直進するレグは、AIMでは別に「Departure leg」と呼ばれている。
同じ言葉でも、指している位置が違うことがある。位置を伝えるときは、レグの名前だけに頼らず、相手に位置が伝わる言い方を選ぶ。
参考:FAA AIM 4-3 Airport Operations(Traffic Patterns)/SKYbrary: Aerodrome Traffic Circuit
パターン内の位置を表す言葉
レグの名前が分かっても、交信ではもう一段細かく位置を伝える場面が出てくる。「Downwindにいる」だけでなく、「Downwindのどのあたりか」を示す言葉だ。
共通しているのは、滑走路やタワーなど、動かない物を基準にしていることだ。
Abeam(真横)
ある地点や物が、自機の進行方向に対して、ほぼ真横(約90°)にある状態を指す。ぴったり90°という意味ではなく、おおよその位置を表す言葉だ。
abeam the tower
タワーが真横に見える位置
abeam the numbers
滑走路の端に書かれた番号(numbers)が真横に見える位置
Midfield(滑走路の中間あたり)
滑走路の中間付近を指す。Downwindでは、滑走路の中間の真横に来た位置が「midfield downwind」になる。管制官がこの位置での報告を求めることがある。
Report midfield downwind.
滑走路の中間の真横に来たら報告せよ。
On the 45(45°でのエントリー)
パターンへ入るときの標準的な入り方のひとつ。Downwindに対して45°の角度で、滑走路の中間の横を目指して入る。この入り方、またはそのコース上にいる状態を「on the 45」と呼ぶことが多い。呼び方は、空港や地域によって変わることがある。
45°で入る利点は、前にトラフィックがいて入れないときに、そこから離れてやり直す余裕があることだ。
Short final/Long final
Finalの中の、滑走路に近い側が「short final」、遠い側が「long final」だ。ただし、何マイルから先が short/long か、という公式な距離の定義は、探した範囲では見つからなかった。
距離の感覚は、人や空港で違う。距離が大事な場面では、レグの名前に頼らず、マイルの数字で伝えるほうが誤解が少ない。
POINT
基準になるのは、滑走路やタワーのような、どこの空港にもある物だけとは限らない。その土地の目標物が基準点として使われることがある。この話は、後の章で扱う。
参考:FAA Pilot/Controller Glossary(ABEAM)/FAA Airplane Flying Handbook Chapter 8/FAA Safety: VFR Pattern ATC Readback Handout
タワーからの指示:Extend downwind
タワーがあるときは、パターンの中の動きを、管制官が調整する。その代表が「Extend downwind」だ。
標準の型
Extend downwind.
ダウンウィンドを延ばせ。ベースに曲がらず、そのまま飛び続ける。
I’ll call your base.
ベースへの旋回は、こちらから指示する。
主な目的は、前を飛ぶ機体との間隔を作ることだ。この指示が出たら、自分の判断でベースに曲がらず、管制官が呼ぶまで待つ。
復唱は、コールサインを付けて「Extend downwind, 〇〇」と返す。高度の指示が付いているときは、高度も復唱する。
現地の言い方:チノ空港の例
ここからは標準のフレーズではなく、私が訓練で、カリフォルニアのチノ空港で実際によく言われた言い方だ。
Extend downwind until over the wash.
washの上空まで、ダウンウィンドを延ばせ。
I’ll call your base.
ベースへの旋回は、こちらから指示する。
I’ll call you left turn or right turn.
旋回の向きとタイミングは、こちらから指示する。
この指示は、チャーター機の乗り入れが多い時間帯に、特によく言われた。
注意したいのは、washの上空に着いても、自分で曲がらないことだ。washは「ここまで延ばせ」という基準であって、旋回してよいという許可ではない。そのあとに、管制官が旋回を呼ぶ。
washという言葉そのものについては、別の記事にまとめている。
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washとは何か
地形としてのwashと、ATCでの使われ方。
目標物は、みんなが同じ呼び方をして初めて基準になる
チノ空港では、ベースやファイナルの手前にあった牛舎を、「farm」と呼んで統一していたこともあった。
小川は「wash」、牛舎は「farm」。パターンの近くにある目印を、その場の全員が同じ呼び名で呼ぶ。だから、一言で位置が伝わる。
逆に言えば、その呼び名を知らないと、指示の意味が分からない。初めて飛ぶ空港では、特に注意が要る。
こうした呼び名は、フライトスクールや空港事務所の張り紙にまとまっていることがある。飛ぶ前に、必ず目を通しておく。
注
これらの俗称は地域や国でも変わるため必ず事前に確認するように。
参考:FAA Safety: VFR Pattern ATC Readback Handout/AircraftPilots.com: ATC Phrases
Crosswindの罠:レグの名前と風は別物
パターンの2番目のレグは「Crosswind」だ。そして、風の話でも「crosswind(横風)」という言葉が出てくる。同じ英語だが、意味はまったく別だ。
混ざりやすいので、2つを並べて整理する。
PATTERN
Crosswind leg
パターンの2番目のレグ。滑走路に対して直角に進む。風とは関係なく、形で決まる名前だ。
WIND
crosswind(横風)
滑走路に対して、横から吹く風。風向と滑走路の向きの関係で決まる。
風の向きによって、当たり方が逆になる
Crosswindレグは、滑走路と直角に飛ぶ。そのため、風の向きによっては、名前と実際の風の当たり方が逆になる。
つまり、Crosswindレグだから横風を受けるとは限らない。名前は形で決まり、風は日によって変わる。
交信や会話で「crosswind」を耳にしたときは、レグの位置の話か、風の話か、前後の文脈で判断する。判断がつかないときは、聞き返す。
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命を救う”Say again.”
聞き取れなかったときの、聞き返し方。
POINT
パターンの形は、毎日同じだ。しかし、風の当たり方は毎日違う。型を覚えたうえで、その日の風を重ねて考える。
Closed traffic:パターンを回り続ける
訓練では、1回飛んで降りて終わりではなく、パターンの中に留まって、離着陸を何度も繰り返すことが多い。この動きを「closed traffic」と呼ぶことが多い。
このとき、毎回の着陸のしかたに、いくつか種類がある。FAAのPilot/Controller Glossaryの定義をもとに、整理する。
着陸のしかたの種類
Touch-and-go
接地したあと、止まらず、滑走路からも出ずに、そのまま離陸する。
Stop-and-go
着陸して、滑走路上で完全に停止する。その位置から、あらためて離陸する。
Low approach
進入したあと、意図して接地せず、滑走路の上を低く通過する。
Full stop
着陸して終了。そのあとの離陸はなく、次に続く動きもない。
Option approach
パイロットが要求して飛ぶ進入。touch-and-go、missed approach、low approach、stop-and-go、full-stop landingのどれにするかを、パイロットが選べる。
滑走路上に留まる場合や、停止・滑走路から出るのが遅れる場合、管制の指示に従えない場合は、パイロットから管制官に伝える。
チノ空港の例:滑走路の割り当て
パラレルランウェイの空港では、用途によって滑走路が分けられていることがある。チノ空港では、たとえば次のような割り当てがあった。
Touch-and-go → 26L
デパーチャーは26R。
Full stop → 26R
着陸して止まるときは、26Rになる。
Right closed trafficをリクエスト → 26R
右回りでパターンを回りたいときは、26Rになる。
ただし、これはあくまで一例だ。その日の状況によって、割り当てが逆になることもある。「26Lはtouch-and-goだから」と決めつけず、毎回、管制官から指示された滑走路を確認する。
滑走路の割り当ては、復唱する。復唱することで、管制官は聞き違いに気づける。パイロットも、何を聞き取ったのかを確認できる。
注
空港ごとの滑走路の使い分けは、地域や空港によって変わる。必ず事前に確認するように。
参考:FAA Pilot/Controller Glossary(Touch-and-Go)/同(Option Approach)/FAA Safety: VFR Pattern ATC Readback Handout
周波数も、その日の状況で変わる
滑走路の割り当てと同じで、周波数も、いつも同じとは限らない。
トラフィックが混んでいるとき、タワーが意図的に周波数を変えることがある。たとえば、パターンを回るローカルトラフィック用の周波数を、混雑時に分ける、といった形だ。
TWRとGRDは、両方控えておく
TWR
Tower
離着陸やパターン内の動きを扱う周波数。
GRD
Ground
地上での移動を扱う周波数。
空港情報に書かれた周波数は、TWRもGRDも、必ず両方を覚えておくか、見える位置に付箋を貼るなどしておく。切り替えの指示が来たとき、周波数を探して手が止まると、それだけで交信が遅れる。
POINT
周波数は、飛ぶ前に決めておくもの。飛びながら探すものではない。
まとめ:型は同じ、変わるのはその日の事情
トラフィックパターンは、基本は同じだ。ただ、たまにややこしい。この記事の内容を、3つに絞って振り返る。
基礎は、どこでも通用する
5つのレグの名前と順番は、私が見てきた範囲では、原則どこでも同じだ。ただし、Upwindのように、公式の定義と現場の使い方がずれている言葉もある。
変わるのは、3つ
目標物の言い表し方、滑走路の割り当て、周波数。どれも、空港やその日の状況で変わる。呼び名や使い分けは、地域や国によっても違うので、必ず事前に確認する。
変化に気づくために
フライトスクールや空港事務所の張り紙に、目を通しておく。日頃からエアバンドを聴いていると、変化に気づけることもある。
秩序とルールの中に、突然の変化が入ってくる。その変化に気づけるのは、基礎が身についているからだ。
だからこそ、基礎は大事だ。
よくある質問
オーラル対策|トラフィックパターンの説明例
実際のオーラル試験を想定し、英語での想定問答を確認しておこう。
Q1 Name the legs of the traffic pattern in order.
Q2 The tower says, “Extend downwind.” What do you do?
Q3 What is the difference between the crosswind leg and a crosswind?
Q4 What is the difference between a touch-and-go and a stop-and-go?
Q5 The controller uses a local landmark you do not recognize. What do you do?
Author
谷口 一貴 / Kazuki Taniguchi
株式会社SMART FLIGHT 代表取締役
元海上自衛隊潜水艦乗り。退官後、アメリカのフライトスクールでパイロットライセンスを取得。カナダ・アメリカを含む世界100校以上のフライトスクールを直接視察し、30回以上のカナダ渡航で航空会社・フライトスクール・空港関係者との信頼ネットワークを構築。訓練生がつまずく要因が英語であり、その後のキャリア・安全性にも英語が直結していることを現場の声から実感。この思想はほぼ全ての航空企業・フライトスクールから強い共感を得ており、パイロットを目指す前に英語によるマインド構築が何より大切であると確信している。
→ プロフィール詳細Last Updated: 2026.10.13