初めてのクロスカントリーで、教官に必ず聞かれること
初めてのクロスカントリー(クロカン)に出る前、教官に必ず聞かれる質問がある。「燃料はどれだけ搭載するのか。その根拠は何か。」だ。
How much fuel are you going to take, and why?
この質問に対する答えは、フライトの条件によって組み立て方が変わる。昼間に飛ぶのか、夜に飛ぶのか、あるいは昼に離陸して途中から夜に入るのか。それによって、法規が求める最低限の予備燃料が変わるからだ。
ただし、闇雲に多く給油しておけばいいという話ではない。燃料は重量であり、ウェイト・アンド・バランス(重量と重心)との関係で積める量には限りがある。普段のクロカンならどれくらいがデフォルトの搭載量なのか、予備を上乗せするならどこまでが許容されるのか。これを把握しておく必要がある。
この記事で押さえること
昼と夜で、法規が求める予備燃料がどう違うか
ICAO・FAA・TCの基準の比較
多く積めばいい、ではない理由(ウェイト・アンド・バランス)
デフォルト搭載量とスクールのローカルルール
昼か、夜か、昼から夜に入るか
まず、同じコックピットから見える景色を並べてみてほしい。
昼は地形が見える。道路、川、街、空港。道に迷っても、目標になるものが目に入る。夜はそれがほとんど見えなくなる。ここに、燃料の考え方が昼と夜で変わる理由がある。
法規が求める予備燃料
VFRで飛ぶ飛行機は、目的地までの燃料に加えて、着陸後も飛び続けられる分の予備を積まなければならない。巡航速度でその時間を飛べる量が基準になる。FAA(14 CFR §91.151)もTC(CARs 602.88)も、昼と夜で次のように分けている。
昼(VFR)
目的地+30分
夜(VFR)
目的地+45分
昼に離陸して、夜に入る場合
クロカンでは、昼に離陸して帰りは夕方から夜にかかるというプランも珍しくない。一般論としては、飛行の途中や着陸の時点で夜に入る見込みがあるなら、厳しい方である夜の予備で組み立てておくのが安全側の考え方だ。
夜の定義や、昼から夜にまたがる場合の細かい扱いは国によって異なる。実際のフライトでは、訓練する国の基準に従うこと。
積む量の組み立て方|ICAO・FAA・TCの比較
搭載する燃料は、目的地までに使う分と、そのあとに残しておく予備の足し算で考える。目的地までの量は距離と速度だけでは決まらない。FAAの規定は「風と予報天候を考慮して」と明記している。向かい風が強ければ、同じ距離でも必要な量は増える。
考え方
搭載量 = 目的地までの燃料(風・天候を考慮)+ 予備(昼30分/夜45分)+ 見込まれる遅れの分
VFRの予備燃料(飛行機)
FAAは14 CFR §91.151、TCはCARs 602.88が根拠となる条文だ。どちらも巡航速度でその時間を飛べる量を基準にしている。3つの基準は、少なくとも飛行機のVFRでは昼30分・夜45分で揃っている。
ICAOの数字は参考値として載せている。正式な内容はICAO Annexの原文で確認すること。
予備とは別に、見込んでおくべきもの
TCのCARs 602.88は、最低限の予備とは別に、次のような事情も見込んで燃料を積むよう求めている。
地上走行と、離陸前に起こりうる遅れ
気象条件
予想される管制ルートと、交通による遅れ
そのほか、着陸を遅らせる可能性のある事態
昼30分・夜45分は、あくまで法規が求める最低ラインだ。実際にどれだけ積むかは、この最低ラインの上に何を積み増すかで決まる。
多く積めばいい、ではない
法規が定めているのは最低量だ。ならば多めに積んでおけば安心かというと、そうはいかない。燃料は重量だ。航空ガソリン(AVGAS)は、一般に1ガロンあたり約6ポンドある。積めば積むほど機体は重くなる。
重量と重心には限界がある
機体には最大離陸重量があり、重心の位置にも許容範囲が決まっている。燃料を積み増せば、その分、人や荷物に回せる重量は減る。機体によっては、燃料を満タンにすると座席が埋まった状態では飛べないことがある。
燃料を増やすと、人と荷物に使える重量が減る
重くなるほど、離陸の距離や上昇性能にも影響する
積んだあとは、重量と重心が許容範囲に収まっているかを必ず確認する
予備の上限は、法規では決まっていない
最低量には法規の数字があるが、どこまで積み増してよいかという上限には、法規の数字がない。上限は、機体の重量と重心の限界、そして使える燃料の容量で決まる。加えて、フライトスクールの推奨や、訓練する地域の事情にも左右される。一概には言えないからこそ、自分の環境の基準を必ず把握しておく必要がある。
初めてのクロカンの前に、教官に確認しておくこと
・普段のクロカンで、基準にしている搭載量はどれくらいか
・予備を積み増すなら、どこまでが許容されるか
・この機体で、満タンにしたとき重量と重心は収まるか
デフォルトの搭載量とローカルルール
法規の最低量とは別に、普段のクロカンでどれくらいを積むのか。ここには、フライトスクールごとのローカルルールがある。私が訓練していたフライトスクールの例を紹介する。
私が訓練していたスクールの基準
計画の前提は1ガロンで8マイル
クロカンの往復距離と、すでに搭載している量から逆算し、さらに15分の余裕を持たせる
慣れない地域へ行く場合は、20分の余裕を持たせる
このように、スクールには明文化された規則以外にも、現場で共有されている決まりごとが存在した。慣れた空域なら15分、慣れない地域なら20分と、飛ぶ場所の事情に応じて余裕の幅が変わるところに意味がある。
これはあくまで一例だ。基準はスクールや訓練する地域によって異なる。自分が訓練を受ける環境のルールは、教官に確認して必ず把握しておくこと。
VFRとIFRでも違う|ヘリは昼夜の差がない
ここまでは、VFRの飛行機の話だった。昼と夜で予備燃料が変わるのはVFRだけで、IFRには昼夜の区別がない。その代わり、IFRでは代替空港までの燃料が加わる。
飛行機の場合
VFRの夜の45分は、IFRの予備と同じ水準だ。夜は地上の目標が見えにくくなるぶん、IFRに近い余裕を求められていると捉えると覚えやすい。
FAAで、IFRでも代替空港が不要になる条件
目的地に標準的な計器進入方式があり、到着予定時刻の前後1時間にわたって、天候が雲高2,000ft以上(空港標高から)、視程3SM以上の予報であること。この条件を満たす場合は、代替空港までの燃料を省ける(14 CFR §91.167(b))。
ヘリコプターの場合は昼夜の差がない
ヘリは、FAAもTCも、VFRの予備が昼夜を問わず20分と定められている。飛行機の「昼30分・夜45分」とは数字が違うので、自分が飛ぶ機種の欄を確認すること。
ICAOの数字は参考値として載せている。ヘリを含め、正式な内容はICAO Annexの原文で確認すること。
実話|日没前のはずが、真っ暗になった
ここまで燃料の基準を整理してきたが、数字を知っていることと、実際に飛べることは別の話だ。訓練中に実際にあった出来事を紹介する。
何が起きたのか
ある訓練生が、夕方、日没の2時間前に離陸した。帰着は日没前という計画だった。ところが、予定の時刻を15分過ぎても無線が入らない。近辺の周波数をモニターしても、反応がない。
予備の機体で当初の着陸予定の空港へ向かい、捜索依頼の準備を進めていた。そのとき、帰着予定を1時間半過ぎた真っ暗な状態で、タワーにポジションレポートと進入のリクエストが入った。しかも、その進入ルートは推奨されているものではなく、上空でパニックに陥っていた。
背景に隠れていた10のステップ
1. 当初の着陸予定の空港を見失い、そのまま直進した。燃料が心配になり、帰ろうと180度ヘディングを変えた。しばらくして、目的地の空港を見つけた。
2. ひとまず着陸した。
3. 離陸前にどれくらい燃料を入れたかを覚えておらず、不安になった。
4. 燃料計の表示から、あとどれくらい飛べるのかが分からず、不安になった。
5. 降りたのはノンタワーの空港(Twenty Nine Palms)で、給油設備はあった。
6. そうしているうちに、日が暮れて、周囲が徐々に暗くなり始めた。
7. とにかく帰ろうと、離陸した。
8. 帰りのルートの確認も、燃料の計算もせずに、そのまま飛んだ。
9. いつもと違う光景にパニックに陥り、タワーにもレーダーにもコンタクトしないまま飛び続けた。
10. 上空で右往左往しているうちに、偶然、見慣れた光景が遠く左手に見えた。そこからアプローチした。
着陸したときの残燃料
約30分
実は、できたことがあった
着陸した空港でできたことは、いくつもあった。
最低限の給油ができた
SoCal(進入管制)に誘導してもらうことができた
教官に電話ができた
空港のラウンジにはシャワーとソファベッドがあり、泊まることもできた
足りなかったこと
10のステップを振り返ると、足りなかったことは3つに整理できる。
① 搭載量の把握
離陸前に積んだ量を覚えていなかった
② 再出発の準備
再出発も新しい出発だ。ルート確認と燃料計算が要る
③ 管制への連絡
タワーにもレーダーにも連絡しなかった
英語ができないと、助けも呼べない
この出来事の背景には、もう一つ原因があった。彼は学歴を至上とする考えの持ち主だった。にもかかわらず、英語はまったく話せなかった。筆記試験はなんとか通過していたが、実地試験には2回落ちている。
「そんな状態で飛ばせたフライトスクールに問題がある」という議論には、ここではあえて触れない。本人がPIC(機長)として飛んだ事実が、何よりの根拠だからだ。
タワーかレーダーに一度連絡できていれば、SoCalの誘導を受けられた。だからこそ、英語ができないなら、フライトするべきではない。
まとめ|数字を知ったうえで、自分の基準を持つ
初めてのクロカンで教官に聞かれる「燃料はどれだけ積むのか、その根拠は何か」には、次の3つで答えられるようにしておきたい。
法規の最低ラインを言える
飛行機のVFRは昼30分・夜45分。IFRは昼夜の区別がなく、代替空港までの燃料が加わる。ヘリのVFRは昼夜とも20分。
目的地までの量と予備から、搭載量を組み立てられる
風と天候を考慮した目的地までの燃料に、昼夜の予備と、見込まれる遅れの分を足して考える。
重量と重心の範囲で、積める上限を把握している
多く積めばいいわけではない。上限は機体の限界と、スクールの方針で決まる。
法規の数字は共通でも、普段のクロカンでどれだけ積むかは、スクールや地域のローカルルールで変わる。教官に確認して、自分が訓練を受ける環境の基準を把握しておくこと。
そして、数字を知っているだけでは足りない。積んだ量を覚えておく。再び飛ぶときは、ルートと燃料をもう一度確認する。困ったときは、管制に連絡する。この記事で紹介した出来事は、そのどれもが欠けたときに何が起きるかを示している。連絡するために、英語は欠かせない。
よくある質問
オーラル対策|燃料搭載量の説明例
実際のオーラル試験を想定し、英語での想定問答を確認しておこう。
Q1 How much fuel are you going to take for this cross-country, and why?
Q2 What is the fuel reserve for a VFR flight in an aeroplane, by day and by night?
Q3 What fuel is required for an IFR flight?
Q4 Why not fill the tanks every time?
Q5 What is the VFR fuel reserve for a helicopter?
Last Updated: 2026.10.05